日本で小説やドラマなどの「右傾化」が進行中――そんな記事が朝日新聞に掲載され、物議を醸している。
槍玉に挙げられたのは、百田尚樹さんの小説『永遠の0』や『海賊とよばれた男』、また有川浩さんの『空飛ぶ広報室』など。韓国紙もこれを引用し、安倍政権の主張と結びつける形でセンセーショナルに報じた。一方でその代表格として挙げられた百田さんらはツイッターで不快感を表明している。
「右傾エンタメ」が増えている…本当?
「売れてるエンタメ小説 愛国心くすぐる」
「戦争素材に続々 『右傾化』の指摘」
2013年6月18日、朝日新聞朝刊にこんな見出しが並んだ。「近頃、エンターテインメント小説に、愛国心をくすぐる作品が目立つ」と問題提起し、背景を考察するという内容だ。記事中では作家の石田衣良さんが、こうした作品を「右傾エンタメ」と評し、特攻隊員の苦悩を題材とした『永遠の0』などを例に引いて、
「(日本の)加害についても考えないといけないと思う。読者の心のあり方がゆったりと右傾化しているのでは」
と論考する。
では、「右傾エンタメ」とは何か。記事では石田さんによる「君たちは国のために何ができるのか、と主張するエンタメ」という説明しかない。ただ挙げられたタイトルから見れば、『永遠の0』を始めとする第二次大戦を舞台とした作品、また現在ドラマ版が放映中の『空飛ぶ広報室』のような自衛隊を舞台とした作品が念頭にあるようだ。また安倍晋三首相の愛読書として知られる百田さんのノンフィクション作品『海賊とよばれた男』も、その筆頭として紹介されている。
これにいち早く飛びついたのが、韓国だ。聯合ニュースは18日、「日本で愛国心刺激する娯楽小説人気」として要約を配信した。これを元にした記事も複数紙に掲載され、特に京郷新聞は、
「日本、安倍政権で文化も右傾化」
「右傾・愛国小説が人気独り占め」
として、安倍政権の右傾化と絡めて大きく報じた。
戦争・自衛隊が舞台なら「愛国もの」?
もっとも朝日新聞の記事に対しては、批判も出ている。特に指摘が相次いでいるのは、内容に踏み込まず、「戦時中・自衛隊を舞台にしている」というだけで「愛国もの」とレッテルを貼っている点だ。また「右傾エンタメ」の先駆けとして福井晴敏さんの『亡国のイージス』(1999年)や『終戦のローレライ』(2002年)を挙げ、2000年代以降の日本社会の不安感と重ねてその勃興を論じているが、戦争や自衛隊を扱ったエンタメ作品がベストセラーとなったのは、高度経済成長まっただなかの1960年前後に起こった「戦記ブーム」を初め、別にここ最近に始まった話でもない。
登場する作者からも、記事は不評だ。中でも、「右傾エンタメ」の代表格としてあげつらわれた格好の百田尚樹さんはツイッターで、
「とうとう朝日新聞がネガティブキャンペーンをやりだしたか。『永遠の0』や『海賊とよばれた男』が右傾化小説と言いたくてたまらないらしい」
「『日本人の誇りを失うな』と主張した小説は、朝日新聞には『右傾化小説』とレッテルを貼られるわけか」
「安倍首相が『海賊とよばれた男』を愛読しているというだけで、朝日新聞は作品を否定したいんだろうなあ。あーあ」
と不満を連発した。『碧空のカノン』の作者としてやはり名前が挙がった福田和代さんも、「中身を読んだ人なら記事見て吹き出すよ」とツイートしている。