北朝鮮の金正恩第1書記が、自らの誕生日に、政府高官に対してアドルフ・ヒトラーの自伝的図書「わが闘争」を配り、研究するように命じたという韓国メディアの報道に、北朝鮮が激怒している。
だが、名指しで「人間のくず」とまで非難された韓国メディア側は、「(記事の)詳細の、どの部分も否定していない」と、内容には自信を持っているようだ。
脱北者らが運営する韓国のニュースサイトが伝える
この異例の「贈り物」のニュースは、脱北者らが運営する韓国のニュースサイト「ニュー・フォーカス・インターナショナル」が、中国で勤務する北朝鮮高官の話として2013年6月17日に報じた。
金正恩第1書記は、1月8日の自らの誕生日に「わが闘争」の翻訳版を政府高官に配り、自ら講義まで行ったという。その中では、核と経済発展の「並進路線」を強調。ヒトラーのことを、第1次世界大戦で敗北したドイツを短期間で再建したとして評価したという。その上で、ヒトラーが政権を担った第3帝国を深く研究し、得られたことを北朝鮮にも応用するように求めた。また、ドイツの結束と思想的成功の背景にはスポーツがあるとも強調したという。ヒトラーが1936年のベルリン五輪をプロパガンダに活用したことを念頭に置いている可能性もある。
スイス留学時代にヒトラーを深く研究?
さらに「ニュー・フォーカス」は、平壌と中国を頻繁に行き来する北朝鮮ビジネスマンの話として、平壌のエリートの間には、「金正恩氏はスイス留学時代にヒトラーのことを詳しく研究した」という噂が流れているとも伝えている。
なお、この種の政府高官に対する贈り物は、父親の金正日総書記時代には洋酒をはじめとする国外の贅沢品だったが、正恩氏の政権になってからは外国のスポーツ用品やCD、翻訳した書籍と、大きく趣が変わったという。
この話題は米ワシントン・ポスト紙のブログでも紹介され、ブログでは
「一番明らかなのは、北朝鮮の今のやり方と、ドイツの80年前のやり方が似ているということだ」
と時代錯誤ぶりを皮肉った。
この点が北朝鮮を刺激したようだ。国営朝鮮中央通信は6月19日「米メディアが北朝鮮に関する誤報を伝えたことを非難する」と題する論説記事を配信し、「わが闘争」に関するエピソードを「完全なでっち上げ」と主張。ニュー・フォーカスについては
「すでに知られているように、ニュー・フォーカスは祖国を裏切って韓国に逃亡した人間のくずが立ちあげた悪徳メディアで、韓国の傀儡と極右の保守派に支えられている」
と非難した上で、その記事を引用したワシントン・ポストについても「自ら恥をさらしている」と論評した。
脱北者の家族「人間のくずを自らの手で殺させてほしい」
同時期に配信された人民保安部の特別談話はさらに過激で、脱北者に死を迫る内容だ。
「北朝鮮の軍と人民は、これらの人間のくずをできるだけ早い時期に処罰することを強く求めている。彼らは同胞との対決姿勢をエスカレートさせており、罪にまみれた過去を死でつぐなおうという姿勢とはほど遠い」
「亡命者の家族や親戚からは、人間のくずを自らの手で殺させてほしいという要請が毎日のように来ている」
この声明を受けて、ニュー・フォーカスが6月19日に更新した記事では、
「北朝鮮は、かき集められるだけの強い言葉で反撃してきたが、詳細の、どの部分も否定していない」
と反論。過去に同サイトが北朝鮮の諜報機関の場所を暴露した際も同様の脅迫を受けたとしている。