日本維新の会の「ツートップ」にあたる橋下徹共同代表と石原慎太郎共同代表との対立が、いよいよ修復不可能なほどに深刻化しているようだ。橋下氏のいわゆる従軍慰安婦問題をめぐる発言で維新の会の支持率が低下したことについて、石原氏は「大迷惑」と怒りをぶちまけ、「終わったね…、この人」と、事実上橋下氏を見放すような発言をしたというのだ。
だが、橋下氏は「慰安婦問題に関しては、僕はまだ間違ったとは思っていませんから」と引かない構え。「力を合わせて、とにかく参院選、都議選を乗り越えていかないといけない」とはいうものの、党内結束にはほど遠いのが実情だ。
慰安婦問題「言わなくてもいいことを言って、タブーに触れた」
石原氏は2013年6月18日、共同通信やスポーツ報知の取材に対して、橋下氏への不満をぶちまけた。
スポーツ報知によると、発言直後の5月に石原氏が橋下氏を直接諭したが、
「おれが3分話すと、10分ぐらい答弁するんだよ(笑い)。やっぱり弁護士だね」
と、半ばあきらめた様子。石原氏は、
「発言に理屈は通ってるんだけどさ、言っていいこといけないことあるじゃない」
と発言の内容は適切だとしながらも、発言をしたこと自体が不適切だったとの認識を示した。石原氏は、橋下氏が太平洋戦争が「侵略戦争」だったと発言していることにも反発。
「そういう歴史観持ってる人間だと(首相は)ダメだね」
と切り捨てた。共同通信とのインタビューでも、石原氏は
「言わなくてもいいことを言って、タブーに触れた。いまさら強弁してもしょうがない」
と発言を批判した。
これを受け、橋下氏は翌6月19日の囲み取材で釈明に追われた。石原氏の発言については、
「石原代表はああいう方ですから、思っていたことをそのまま言われたのだと思う」
と特に反論せず、
「今は選挙中ですから、敵は外にある。力を合わせて、とにかく参議院選、都議選を乗り越えていかないといけない。ただ、『党内にこういう議論があるということも有権者の皆さんに知っていただく』ということでは、いいことなのでは」
と取り繕った。ただ、記者から
「党のために一歩引く、主張を引っ込めるというお考えは?」
と聞かれると、
「慰安婦問題に関しては、僕はまだ間違ったとは思っていませんから、これはしっかり主張・説明していく。有権者の皆さんに理解を求めていく」
と断言。従来の姿勢を全く変えなかった。
「河野談話が表現不足だったのは間違いない」
さらに橋下氏は、6月19日の毎日新聞朝刊に掲載された石原信雄元官房副長官のインタビューも言及した。石原信雄氏は、従軍慰安婦の動員について強制性を認めたとされる1993年のいわゆる河野談話の取りまとめに携わったことで知られている。インタビューでは、石原信雄氏は
「明らかに本人の意思の反するものがあったことは否定できないという心証を我々は得た」
としながらも、
「文献その他からは、日本政府なり軍部が強制的に慰安婦を募集せよといったものはない。焼いてしまったという人がいるが、そうじゃないと思う。当時の軍だって、本人の意に反してでも集めろなんて文書を出すはずがない」
とも述べている。
この点について、橋下氏は、
「あの事実のまま河野談話に書けば良かったんです。(事実を)認定したのであれば。それを河野談話では抽象的に書いてしまったが故に、石原信雄さんは『あいまいじゃない』って言うんですけれども、世界の認識と石原信雄さんの認識は全然違う」
と、河野談話が原因で、日本政府の意思で強制的に慰安婦が集められたとの認識が世界中に広がったとして改めて批判した。さらに、
「河野談話が表現不足だったのは間違いない。これは石原信雄さんをはじめ、河野談話を作成した人の大罪だと思いますよ」
とも述べ、従来の主張を繰り返した。
東国原氏も苦言「現場の士気や結束力は下がる一方」
橋下氏によると、石原氏とは「電話でしっかり話をした」という。その中で、「テレビカメラの前で謝ったらどうか?」との話も出たというが、橋下氏は、現職議員や候補者に対してはメッセージを出す用意があるとしながらも、テレビカメラを前にした謝罪は、メッセージを発信する対象は自ずと有権者になると主張。
「有権者に対して、ということであれば事情が変わってくる」
と否定的だ。
やはりツートップの確執は党内にも波紋を広げており、東国原英夫衆院議員は、ツイッターに
「ただでさえ逆風下で党が、今こそ一致結束し一丸となって戦わなければならない時に、党内(トップ)が分裂・混乱しているような印象を国民・有権者に与えるのは如何なものか。現場の士気や結束力は下がる一方である。有権者や支持者の方々にどう説明すればいいのか」
とつづった。