米国の自動車市場で異変が起きている。着実にシェアを伸ばしてきた韓国・現代自動車と傘下の起亜自動車が、2013年は不振に苦しんでいるのだ。
背景には、同社が起こした不祥事や大規模リコールに加え、円安ウォン高の進行で日本車が価格競争力を取り戻し、攻勢を強めている点が考えられる。
「20年間で初めてシェアを落とした」
米自動車専門紙「オートモーティブ・ニュース」電子版は2013年6月17日、米市場における2013年5月の主要メーカーの販売実績を発表した。小売販売では米クライスラーが前年同期比18%増で伸び率トップ、日産自動車も同15%と好結果を出した。トヨタ自動車、ホンダも前年比でプラスを確保している。
これに対して現代・起亜自は同8%減と「独り負け」となった。同紙は「今年に入って、これで5か月連続での(前年同期比)マイナス」と報じている。一方で「フリート販売」では前年同期比で125%増を記録。ただしフリートとは、レンタカー会社に買い戻し条件付きで販売したものを指している。
米国現代自のウェブサイトを見ると、米国での市場シェアは1999年以降徐々に伸ばしてきたが、近年は成長が著しい。2008年の3%から2011年には5.1%へと拡大したのだ。2012年のデータは公式に発表されていないが、オートモーティブ・ニュースは2013年1月3日、「20年間で初めてシェアを落とした」と伝え、原因は「供給台数に限りがあったことと、東日本大震災による影響を乗り越えた日本車メーカーの復活」で、シェアは4.9%に後退したという。現代自は堅調だったが、傘下の起亜自が2012年12月に前年同期比で10%減と落ち込んだのが響いたのかもしれない。
成長に水を差したのが、2012年11月に発覚した燃費性能の過大表示問題だ。主要車種「ソナタ」「エラントラ」などで、1ガロン(約3.8リットル)あたりの走行距離を偽ってカタログや広告に掲載していたと報告された。米環境保護局の発表によると、対象となったのは米国だけで約90万台に上り、カナダでも17万台で「燃費水増し」表示があったという。現代・起亜自は意図的な燃費データの改ざんを否定したが、米国各地では顧客が相次いで集団訴訟に踏み切った。ブランドイメージは大きく傷つき、車の性能への信頼自体も揺らいでしまった。
国内生産比率が高く、為替レート変動の影響受けやすい
追い打ちをかけるように2013年4月には、大規模なリコールが起きた。ブレーキスイッチの不具合や、エアバッグ作動時に天井材が落下する危険性があるとの理由だ。対象となったのは米国だけで187万台に及んだ。
逆風下の現代・起亜自とは対照的に、日本車メーカーが絶好調なのも大きい。長らく円高にあえいできたが、「アベノミクス」効果で2013年に入ると円安が加速。逆に現代・起亜自はこれまで武器となっていた通貨安が一転、ウォン高に悩まされている。
中でも米国で勢いがあるのが日産自動車。2013年6月16日付の米ブルームバーグによると、5月の売上高は前年同月比25%増を記録した。これは業界全体の伸びの3倍にあたるという。円安効果に加えて7車種の値下げと、販売奨励金引き上げにより波に乗った。日産の大胆な価格攻勢に米国の「ビッグスリー」も神経をとがらせ、「次はトヨタが来る」と警戒感を強めているほどだ。
日本総研・上席主任研究員の向山英彦氏は、6月5日付でウェブサイト上に発表した韓国自動車産業に関するリポートで、現代自について「国内生産比率が日本企業と比較して高いのが特徴」で、「米国での販売は為替レート変動の影響を受けやすくなっている」と指摘している。ウォン高が進めば海外生産比率を引き上げる選択肢があるが、そうなると韓国内の雇用悪化につながり、会社として批判を招きかねない。課題解決のためには、韓国内での生産性を引き上げて生産能力を維持していくことだと結論付けている。