日本航空(JAL)の一部労働組合が2013年6月17日、賃金制度改正をめぐる会社の対応に不満があるとして、6月19日0時から24時間の全面ストライキを行うことを通告した。JALは10年に経営破綻して公的支援を受けた後、12年9月にスピード再上場を果たしたばかりで、再上場後に組合がストを通告するのは初めて。スト自体は労働者に認められた権利だが、JALのフェイスブックには「もうストライキできる身分になったのでしょうか ?」といった批判が殺到し「炎上状態」。別の組合は「お客様からの信頼が失われる」と、ストの即時回避を求める声明を出す異例の事態になっている。
株主総会にぶつけて「強い取り組み」印象づける狙い?
ストを通告したのは、地上社員やパイロットでつくる日本航空乗員組合(宇賀地竜哉委員長、約1300人)。組合ウェブサイトの声明によると、
「賃金水準向上等の具体的な展望が見えないまま貴重な時間が失われています」
「高稼働が継続し、職場の疲労が高まっている」
と、再上場後も高収益を続けているにもかかわらず労働環境が改善されないことを批判。ストに踏み切る理由を
「経営は今後の成長の為のキーワードの一つに『スピード』を上げて(原文ママ)いますが、経営自ら率先して『スピード』をもって職場の閉塞感解消に対応させるためには強い取り組みが必要と判断しました」
と説明している。また、ストを予定している6月19日には、再上場後初めての株主総会が予定されている。株主総会にストをぶつけることで、「強い取り組み」を印象づける狙いもあるとみられる。
大型機や羽田乗り入れ便には影響ない
JALの労働組合は6つもある。今回のケースのように、そのうちのひとつがストライキに突入したとしても、管理職や他の組合に所属する社員である程度はカバーできるため、実際の運航への影響は限定的だ。さらに、航空業界では深夜になって交渉が妥結し、ストが回避されることも多い。
今回ストの影響を受ける便は、すべて大阪(伊丹空港)を拠点とする地域航空会社のジェイエア(J-AIR、大阪府池田市)が運航。同社はエンブラエル170型機(76人乗り)とボンバルディアCRJ200型機(50人乗り)の小型機2機種を使用している。大型機や羽田空港に乗り入れる便には影響しない。
仮にストに突入した場合は50便が欠航する見通しで、JALグループの運航便数に占める割合は8%程度にあたる。影響を受ける乗客は約1400人。過去の1日あたりの乗客数から試算すると、全体に占める割合は1.8%だとみられる。
ただ、JALに多数ある組合は一枚岩ではないようだ。例えば「経営寄り」だと指摘される最大労組のJAL労働組合(JALFIO、高森英智委員長、約6100人)では6月17日、「乗員組合執行部は即刻ストを回避すべき!」と題した声明をウェブサイトに掲載。
「経営寄り」最大労組は「即刻ストを回避すべき!」
声明では、スト権の行使自体を否定するものではないとしながらも、
「JALグループに対して、『やはり以前のJALに戻ったのではないか』といったさまざまな厳しいご意見が寄せられることが想定されるとともに、破綻以降、これまで少しずつ築き上げてきたお客様からの信頼が失われることになってしまいます」
「乗員組合として、今このタイミングでこの行為に及ぶことが、課題解決の手法として本当に組合員のためになる最善の選択なのでしょうか?」
とストを批判している。
JALFIOの懸念は的中したようで、ストの予定を発表したJALのフェイスブックのコメント欄には
「もう ストライキできる身分になったのでしょうか ?」
「ストライキは確かに労働者の権利ですが…JALさん、いや、乗員組合さん、少しワガママ・贅沢が過ぎませんか?」
といった声が殺到している。すでに870件以上のコメントが寄せられており、その大半がストに批判的な内容だ。
破たん前から平均年収2割ダウン
なお、JALの有価証券届出書や有価証券報告書によると、経営破たん前の09年の3月31日時点では、パイロットの平均年齢は43.7歳で平均年収は1843万4000円で、破綻後の12年6月30日時点では平均年齢は42.4歳、平均年収は1440万3000円。21.9%ダウンしている。
他社のパイロットにも目を向けてみると、12年3月31日時点で、全日空(ANA)は平均年齢45.1歳、平均年収1989万円で、スカイマークは平均年齢48.9歳、平均年収は802万9000円だ。