マスメディアで拾えない声に働きかける
―― 一票を投じる際の「熟慮度」が上がった結果、投票の質が上がるということでしょうか。ではこの「熟慮度」が上がると、政局が原因で選挙ごとに突風が吹いたかのように大敗と大勝が繰り返されるような現状は、修正されるのでしょうか。
鈴木 まだ「多少」でしょうね。ネットと比べると、まだまだテレビからの影響は大きい。ただ、ネットは新聞には追いつきました。いずれネットがテレビに追いつくと思います。熟慮度が上がることは間違いないので、大きな1歩です。
―― 「マスメディアでは拾えなかった声を拾うのがネット」とも強調しています。
鈴木 候補者と有権者の対話に加えて、有権者同士の「耕論」も促していきたいです。既存マスメディアは何でも対立構造で面白おかしく伝えようとしますが、それは現場で問題だと感じていることとはかけ離れています。マスメディアは記号を消費する消費者に対しては熱心に情報を送ってきたものの、問題意識を持っている人の問題意識は争点化してこなかった。
それを有権者の皆さんが当事者の立場からネットで議論できるようになるのは大きい。ネット利用によって有権者の熟議が深まることが第一で、メガデータを分析するなどして耳をそばだてたいと考えます。それをきっかけに、それぞれの有権者が直面する課題の解決策への糸口が、政治の中に見えてくる。
―― 多様なニーズを反映しやすくするということでしょうか?
鈴木 例えば、民主党政権では高校無償化法を作りましたが、高校生や大学生を抱える保護者にとっては、学費負担は非常に大事な問題です。都内だけでも30万人の高校生がいる。保護者は60万人ぐらいでしょうか。高校無償化は、その人たちにとっては大事な問題です。ただ、有権者の割合からすれば5%強ぐらい。そのため、優先順位としては景気対策、年金などに次いで4~5番目になってしまい、選挙のアジェンダ(争点になる政策テーマ)にはなりません。それがネットの登場で「ロングテール」のニーズを拾うことができるようになります。そこに関心がある政治家と有権者がつながっていくことが期待できます。
ところが、そういうことはマスメディアでは余り面白く見せられないので、政局話や個人に着目したスキャンダルに終始してしまいます。