米投資ファンド、サーベラス・グループによる西武ホールディングス(HD)に対する株式の公開買い付け(TOB)は2013年5月31日に終了し、サーベラスが合併などの重要議案を否決できる3分の1超は確保した。しかし、議決権ベースの保有割合は3.04%分を上積みしただけの35.48%にとどまった。
6月25日の西武HDの株主総会でサーベラスは新たな取締役候補を提案し、なお揺さぶりをかける構えだが、支持は広がりを欠く。今後はサーベラスと西武HD経営陣が水面下で進める協議で膠着状態を打開できるかがカギを握る。
個人株主は動かず
西武HDの経営陣は、株主総会に向けて株主に送付した招集通知に、「株主総会で当社をご支持いただける株主の皆さまへ」と題した冊子を同封した。表紙裏の1ページ目で、後藤高志社長の写真とともに株主への要望を記載。「サーベラス・グループによる取締役の選任が株主提案されるなど、当社の今後の経営体制を決する重要な株主総会です」としたうえで、「会社提案には賛成票を、株主(サーベラス)提案には反対票を投じていただきたく、よろしくお願いいたします」としたためている。
冊子では、会社提案に賛成するための委任状や議決権行使書の送り方などもイラスト入りで分かりやすく解説。会社提案への賛成票を固め、株主総会でのサーベラスに完全勝利に向け、躍起となっている姿が浮かぶ。
一方のサーベラス。今年3月に開始したTOBは2度の期限延長を経て5月末に終了したが、延長の効果もなく、目標の上限とした44.67%には遠く及ばなかった。もともと32.44%を保有していたサーベラスは、約13%を占める個人株主に照準を定めていた。大株主の金融機関や取引先企業は西武HD経営陣を支持していたためだ。44.67%という目標の上限も個人株主分のほぼ丸ごと取得を意識したもの。西武の例年の株主総会で議決権を行使するのは8割程度のため、4割超を確保すれば、役員選任できる実質「過半」にいたる、との計算もあった。TOB価格は2004年の上場廃止時の3倍近い1400円とし、個人の利益確定にはもってこいの水準との読みもあったようだ。
株主総会前に勝負あった?
しかし、ふたを開ければ応募は低調。西武の業績が堅調なうえ市場全体の株高ムードも消えていないため、上場後に売った方が儲かると思った株主が多かったようだ。西武HD経営陣側が西武の列車内にTOBへの応募回避を求める広告を打ち続けたことも影響したとみられる。
もともと株主総会は3月末の株主が議決権行使できるもので、TOBに応じた株主分は総会にはサーベラスの議決権にはならないが、サーベラスの提案に賛同すると見られる。サーベラスはTOBで3分の1超は確保したものの、もはや委任状争奪戦(プロキシファイト)のような正面衝突で元金融庁長官らを役員として送り込むのは事実上、不可能だ。
株主総会を前に既に勝負あった感もあるが、西武HD経営陣としては今後、3分の1超を持つサーベラスの意向を無視した経営ができるわけではないし、サーベラスの意向に逆らった上場ができるわけもない。水面下で両者の弁護士間の協議は始まっており、形式的な株主総会よりも、そちらの話し合いの行方が今後の焦点だ。