税と社会保障の情報をまとめて管理するための共通番号、いわゆるマイナンバー制度の導入による企業へのコスト負担が、従業員1万人規模の大手企業で施行時に数千万円~数億円、施行後のランニングコストとして年間数千万円にのぼることが、野村総合研究所の調査でわかった。
マイナンバー制度は2013年5月24日の通常国会で法案が成立。15年秋には「個人番号」と「法人番号」が配布される見通しだ。
年金、雇用、医療の事務手続きが簡便化
マイナンバー制度は、国民一人ひとりに番号を割りふり、年金や雇用、医療・福祉分野や税金などの手続き、被災者の生活再建支援金の支給などの場面で、番号と国や地方自治体などが保有している個人情報をヒモ付けして、情報管理と事務処理を簡便化する仕組み。その他の行政分野や民間サービスでの利用は、現状では想定していない。
自分の情報を保持、管理するツールとして、国民全員に「番号カード」が配布され、自分が年金や医療保険、所得税をいくら払ったかなどを一括で確認でき、また年金や生活保護をいくら受給したかなども、ポータルサイトで確認できるようにする。
番号カードは、現在別々の年金手帳や健康保険証、介護保険証を1枚で管理できるほか、身分証明書を兼ねることもできる。
転居したり結婚などで姓が変わったりしても、継続して記録を管理できるようになり、社会問題化した年金記録の記載漏れのようなミスをなくしたり、低所得者を偽装した生活保護費の不正受給を防げたりできる、とされる。
企業のメリットも大きい。野村総合研究所の試算によると、マイナンバー制度が普及すれば、行政と企業間の厚生年金や健康保険、所得税などの手続きの電子化によって、企業の負担は年間約1000億円以上が軽減される。
また、固定資産や自動車、法人などの各種登記情報などの手続きの電子化効果では、事務処理に係る人件費の削減で、企業の負担は年間約770億円削れるという。
企業から行政への税や社会保障に関する報告は、自治体や部署ごとに書式が異なるため、内容が同じにもかかわらず、企業は数千、数百の報告書を作成しなければならないなど煩雑だ。マイナンバー制度を活用すれば、全国共通仕様のデータ伝送が可能になり、印刷や送付、入力もいらなくなる。
ただ、個別の企業単位でみると、準備を含めかなりのコスト増になるので、単純に「トク」になるとはいえないようだ。
一方、所得や病歴といった個人情報の漏えいが懸念されている。悪用されないように刑事罰を含む厳しい罰則を、個人とともに法人にも科すなど、管理者には厳格な対応を求めている。
町の八百屋でも対応は必要
そうした中で、マイナンバー制度の導入にかかる企業の負担については、あまり知られていない。
野村総合研究所によると、多くの従業員を抱える大手企業ほど構築するシステムの規模が大きく、複雑になるため、負担は重くなると指摘する。たとえば、年金や雇用情報の取り扱いでは、正社員のほか、パートやアルバイトの情報管理も必要になるし、場合によっては家族の情報も必要になるためだ。
また、中小・零細企業だからといって無視できるものではない。「極端な話、町の八百屋でもアルバイトを雇えば、その情報を番号管理することになりますし、万一情報が悪用されれば、罰則が適用されます」と、梅屋真一郎・制度戦略研究室長は話す。
マイナンバー制度は現在も詳細を検討中。そのため、準備に二の足を踏んでいる企業は少なくない。
とはいえ、企業は2016年1月(予定)の制度導入までに、番号の管理や運用のためのシステムを開発して動くようにしておかなければならない。梅屋室長は、「13年秋にも準備を始めなければ、間に合わなくなります」と、警鐘を鳴らしている。