日銀の黒田東彦総裁が「従来とは次元が異なる」と胸を張って2013年4月に導入した新たな金融緩和策。デフレ脱却に向けて2年後をめどに前年比2%の物価上昇率を目指すものとして、その成果が注目される。
一方でリーマン・ショック以降、やはり大胆に金融緩和を進めた米連邦準備制度理事会(FRB)は、米景気回復を受けて緩和縮小を模索し始めた。日銀も緩和策の「手じまい」は人ごとでないだけに、この米当局の一挙手一投足に注目している。
バーナンキFRB議長発言の解釈に揺れる
「バーナンキFRB議長のあの発言はどういう意味なんだ」
日銀内にこんな驚きが走ったのが、5月23日。前日のバーナンキ議長の議会証言をめぐってのことだ。前後半2部構成の議長証言の前半では、用意した文書に沿う形で「量的緩和縮小は時期尚早」と述べたが、後半の議員との質疑応答では「今後数回の米連邦公開市場委員会(FOMC)で資産購入縮小もありうる」と、前半とは真逆とも言える考えを示したのだ。
この議長証言に金融市場は動揺し、「緩和縮小=米金利高」を織り込む形でドルが買われ、円相場は一時、1ドル=103円74銭まで円安・ドル高が進んだ。この値は5月の円の最安値となった。
5月23日と言えば、東京株式市場で日経平均株価がITバブル崩壊の時以来、13年ぶりの下げ幅となる1143円の急落を記録した日だ。議長証言は「世界をうごめくマネーの動揺」という形をとり、東京株急落の一因になったとも指摘される。
「国債の購入量を減らす時のショックは想像に余りある」
日銀内では結局、「22日のバーナンキ議長証言の後半部分は本意が伝わっておらず、今後修正するのではないか」と見ているようだ。「用意したペーパーと逆の方向の内容をわざわざ言うはずがない」との見方からだ。ただ、市場関係者の間では「緩和策縮小に向けて上げた観測気球で、議長なりの高等戦術」との指摘も根強い。
日銀は国債の保有残高を2年で2倍に増やすことを柱とする新たな金融緩和策を始めたばかりで、「(金融緩和を縮小する)出口戦略の議論は時期尚早」(黒田総裁)との意識は強い。しかし、白川方明前総裁時代から見れば、大きく緩和に踏み込んだ「黒田日銀」の政策にリスクを感じ取る向きも日銀内外に少なくない。日銀ウォッチャーの間では「日銀が国債の購入量を減らす時の市場のショックは想像に余りある」との声がしきりだ。
このため、毎月850億ドル(約8兆5000億円)の米国債などを買い入れる緩和策を実行中のFRBの出口戦略の進め方が重要な先行事例となる、という声は日銀内に強い。バーナンキ議長が市場とどう対話してショックを和らげようとするのか、買い入れ縮小のペースはどうなのか――。日銀はFRBの出口戦略が頓挫し金融市場が荒れないことを祈りつつ、年末にかけての動向を注視している。