「こんないい日に、お巡りさんも怒りたくはありません」。日本のサッカーW杯出場決定に沸いた渋谷駅前のスクランブル交差点で、マイクを持ってこんな粋な誘導をした警視庁の機動隊員がネット上で話題になっている。
W杯の度にカオス状態になってきたスクランブル交差点は、出場がかかった2013年6月4日夜は、初めて封鎖されることになり、波紋を呼んだ。
「警官が日本代表おめでとうとか言い始めたぞ」
いざ日豪戦が始まるころになると、機動隊が実際にバリケードを築き、スクラムの列を組んだ。報道によると、警備の数は数百人に達したそうだ。
そして、本田圭佑選手がPKで劇的な同点ゴールを挙げると、サポーターらが交差点にも次々に集まり出した。あわやサポーターと機動隊が衝突かとも予想される中、ツイッターでは、こんな意外な声が上がった。
「【速報】警官が日本代表おめでとうとか言い始めたぞ」
機動隊のうち若い男性警官1人が警察車両の上に立ち、マイクを持って呼びかけ始めたのだ。
この警官は、騒ぐサポーターたちを怒鳴り付けることはなく、意外にもこんなスピーチを始めた。
「目の前にいる怖い顔をしたお巡りさんは、皆さんに好きでこういうことをしているわけではありません。心の中では、日本代表のワールドカップ出場を喜んでいるんです」
「皆さんのチームメイトなんです、お巡りさんも。どうかチームメイトの言うことを聞いて下さい。お願いします」
静かに交通ルールとマナーを守るよう呼びかけると、驚いたサポーターから歓声と拍手が沸き起こった。これに対し、警官は声援に感謝しながらも、「皆さんが歩道に上がってくれる方がうれしいです。どうか歩道に上がって下さい」と訴えた。
こうしたやり取りは次々にツイートされて、ネット上で大きな話題になった。
20代機動隊員には、取材依頼が殺到
男性警官について、その巧みな話術からDJをしているのではないかとの憶測も出て、「DJポリス」とのニックネームが付いたほどだ。
「ケガをすると後味が悪くなってしまいますよ」という呼びかけは、コミックマーケットでの誘導方法に似ているとの指摘も出た。また、東京ディズニーランドのアルバイトをしていたのでは、といった声もあった。
一体どんな警官なのか、警視庁の広報課に取材すると、DJやコミケの誘導などをしていたことは否定した。しかし、東京都江東区にある第9機動隊の広報係をしており、話術は得意だというのだ。
宮城県出身で20代になる隊員で、2012年9月20日に配属された新人だという。
「その場で、自分で考えて言ったということです。理由は聞いていませんが、ああいう場所なので、頭ごなしに言っても聞かないと考え、やんわりとソフトに言ったのだと思います」
話術については、13年1月31日にあった警備広報の競技大会で優勝した経験があるそうだ。趣味の1つがスポーツ鑑賞といい、「本人もサッカーを見たかったかもしれませんね」と笑う。
過去にこんなに話題になったスピーチはなかったそうで、取材依頼などが殺到しているという。
渋谷の騒ぎでは、隊員の誘導ぶりの効果かは分からないが、報道によると、逮捕者やケガ人などはいなかった。