サッカー日本代表が、2014年ワールドカップ(W杯)ブラジル大会への切符を手にした。1点ビハインドの後半ロスタイム、同点となるPKを成功させたのはMF本田圭佑選手だった。
入れればW杯決定、外せば持ち越しと重圧がかかる状態で、本田選手は「ゴールど真ん中」に蹴りこみ、決めてみせた。リスクが大きいとも思える中央のコースを、なぜ選んだのだろうか。
ヨルダン戦ではゴール右寄りに蹴り入れた
「PKが入った瞬間、記者席からは『やるなあ』『本田らしい』との声が上がりました」
こう話すのは「フットボールレフェリージャーナル」を運営するサッカージャーナリスト、石井紘人氏。2013年6月4日のW杯アジア最終予選「日豪戦」を、試合会場の埼玉スタジアムで取材していた。
相手のハンドで得たPK。本田が蹴ったボールは横っとびの豪州代表GKをあざ笑うかのように、ゴールど真ん中に突き刺さった。この得点が、日本代表を5大会連続となるW杯出場に導いた。
試合後、「結構緊張していたので、真ん中に蹴って取られたらしゃあないな、と思って蹴った」と、PK直前の胸の内を明かした。
石井氏はPKの直前、「もしかしたら真ん中を狙うかもしれない」との「予感」があったという。ハートの強い本田選手だからこそ、「まさかこの場面で」と思うような方向に蹴る可能性は十分にあると考えたからだ。
最終予選では2012年6月8日の対ヨルダン戦でも、本田選手はPKを決めている。このときは右寄りに蹴り入れ、ゴールネットを揺らした。2011年1月13日のアジア杯、シリア戦でも正面やや右側にPKを叩き込んだ。「ど真ん中」というのは本田選手としても珍しいようだが、「キーパーが動かなければキャッチされてしまう」リスクが高いと、石井氏は指摘する。何の裏付けもなく、やみくもに蹴ったとは思えない。
考えられるのは、本田選手が、相手キーパーがPKにどう反応するのかを事前につかんでいた可能性だ。「決めなければ負け」の土壇場で、頭に入っていた相手の特徴や過去のデータを冷静かつ瞬時に分析したうえで、「きっと動くに違いない」と確信をもったのではないだろうか。
強行日程も「影響は全く感じなかった」
PKをキーパーの立場で見ると、「ボールが蹴られた後に反応しては間に合いません」(石井氏)。そのためキッカーの球出しの方向を予測して、早めに体を動かさざるを得ない。本田選手はこれまでも代表選でPKを蹴っており、ある程度の情報はあっただろう。しかもこの場面、豪州が1点リードのうえ試合終了直前のプレーだった点を考えると、プレッシャーがかかるのはむしろ本田選手の方だ。一方で、過去のPKのコース取りから「まさか真ん中はないだろう」と判断したかもしれない。だが、「意外性」に成功を見いだした本田選手が心理戦で上回り、結果ゴールを決めたというわけだ。
今回、本田選手が代表チームに合流したのは、豪州戦のわずか1日前。帰国直前の6月1日にはロシアの所属チームのカップ戦でプレーしている。しかも、故障から復帰して間もない。強行日程のなかでのスタメン出場だっただけに、試合中はツイッターに「目の下のクマがすごい」「大丈夫か」と疲れを心配するファンからの書き込みが少なくなかった。だが、埼玉スタジアムで本田選手のプレーを間近に見ていた石井氏は、「影響は全く感じなかった。動きもキレがあった」と、体調不安説を一蹴した。
試合終了直後、本田選手は早くも6月15日開幕の「コンフェデレーションズ杯」を見据え、「優勝するつもり」と言い切った。世界各国に先駆けて一番乗りを果たしたW杯ブラジル大会でも、優勝を目標に掲げている。