「原発事故の慰謝料を、1人月10万円から35万円に増額してほしい」。全国に避難している福島県浪江町の避難民1万人余が東京電力にこう求めたことに対し、高すぎるのではないかとの疑問が出ている。どうなのか。
4人家族だと、月に140万円、1年間なら1680万円――。もし1人月35万円の慰謝料が実現すれば、こんな計算が当てはまることになる。
「4~5年普通の暮らししてりゃ家建つなw」
避難している人たちには現在、事故の精神的損害の賠償金として1人月10万円の慰謝料が東電から支払われている。慰謝料といってもいいお金だ。これに対し、浪江町は2013年5月29日、精神的損害には見合っていないとし、賛同する町民を代理人の立場で募り、和解の仲介をしている原子力損害賠償紛争解決センターに増額の申し立てをした。
月10万円というのは、交通事故の軽傷で通院や入院をして自賠責保険を使った場合の慰謝料12万6000円を元にしている。原発事故の場合は、これより減額された形だ。とはいえ、税金が引かれないため、4人家族なら月に40万円の手取り収入があることになり、これまでもネット上などでその妥当性が議論になってきた。
今回、さらに35万円に増額を求めたことに対し、ネット上では、驚きの声が上がっている。
「働くのが馬鹿馬鹿しくなるな」「生活保護より凄い」「4~5年普通の暮らししてりゃ家建つなw」…
原発周辺に立地する自治体として、東電などから多額の補助金をもらっていたことを挙げ、それでも増額を求めることに疑問視する声もあった。
避難した人たちは以前、働かないでパチンコなどに行っていると指摘され、避難先の首長が苦言を呈したことがあった。現在はどうなっているのか。
浪江町の仮設庁舎がある福島県二本松市では、ある保守系市議は、やはりパチンコなどに行っている高収入の避難民も現実には多くいると取材に明かした。一方、別の市議は、スーパーなどで普通より多く買う避難民もいるが、今は飲みに行って荒れるなどのケースは少なく落ち着いたと言う。
「金額にこだわっているわけではない」
避難している人たちの現状ははっきりしない部分があるが、なぜ月に35万円も必要だと考えたのか。
支援弁護団の事務局長をしている浜野泰嘉弁護士は、取材に対し、こう説明した。
「カバー金額の低い自賠責ではなく任意保険を考え、交通事故で入院した場合に出た慰謝料の判例を参考にしました。そのうち、普通のケガで出る53万円ではなく、むち打ちの軽傷で出る35万円の基準を選んでいます。通院ではなく入院の場合にしたのは、避難されている方々が身体的自由や生活基盤から離れていると考えたからです。仮設や借り上げの住宅で生活しているのは、入院と同じことになると思います」
4人家族なら月140万円にもなることについては、こう話す。
「避難されている方は、家族がバラバラになったり、コミュニティが破壊されたりしており、元の生活に戻れる保証もありません。1人1人が受けた苦痛を考えれば、その金額は不当ではないと思います」
もっとも、金額にこだわっているわけではないともいう。
「いくらが妥当か議論するつもりはなく、被害の大きさについて知ってほしいということです。当面の救済が月10万円ということで、2年経って見直しが必要になっており、そのきっかけになればいいと考えて申し立てました」
慰謝料は5年が想定されているが、弁護団では、浪江町の除染が完了し、事故前の線量に戻るまでを主張している。これでは相当長期間になることについて、浜野弁護士は、「いつまで支払えと言っているのではなく、避難されている方が町に戻れるようになることが大切だということです」と話す。
避難民が働かずにパチンコをしているという批判については、「精神的な苦痛に対し、どうお金を使うかは個人の自由だと思います。それについて批判が起きるのは、避難されている方への理解がまだまだ進んでいないからではないでしょうか」と言っている。