提携先工場の労働環境の劣悪さで批判を浴びた企業も
バングラデシュの労働環境の現状をリポートした5月13日の「ワールドWave」(NHK BS1)では、同国の経済成長を支えているのが輸出の80%を占める縫製業だと紹介した。1990年代に衣料品工場が急増し、女性を中心に400万人ほどの雇用が生まれたという。確かに、ILOが5月8日に発表した「世界の雇用情勢‐若者編」を見ると、2012年の若者の失業率が世界で最も低かったのは同国を含む南アジアで、日本が位置する東アジアよりも好結果だった。
ただし労働条件は厳しいようだ。「ワールドWave」で恵泉女学園大学の大橋正明教授は、衣料品工場に勤務する女性労働者の月給は約4000円と明かした。番組では英BBCがバングラデシュの工場に潜入取材した様子を紹介。ひとつしかない非常口、消火器具はバケツに入れた砂、作動しない火災報知機と劣悪な実態を暴いている。現地の工場経営者はもちろんだが、発注元である欧米や日本企業も、現場責任者が従業員の安全にきちんと配慮しているかチェックすべきだと結論づけていた。
途上国で不当な条件を労働者に押し付け、安全性を顧みない企業の姿勢は過去にも厳しく断罪されてきた。スポーツ用品メーカーの米ナイキは1990年代後半に、提携先の工場の従業員が低賃金や長時間労働といった悪条件の下で就業させられていると非政府組織(NGO)からの追及を受け、現地の職場環境改善をはじめ対応に追われた。近年では米アップルが、「アイフォーン(iPhone)」や「iPad」を生産する中国フォックスコンでの労働環境を問題視された。工場での自殺者が相次ぎ、たびたび従業員による抗議が発生したことから、批判の矛先がアップルにも向けられたのだ。
ファーストリテイリングの海外生産のうち、約7割は中国で、残りをバングラデシュやベトナムといったアジアで手掛けている。同社広報はバングラデシュ内の工場数を明かさなかったが、「将来は3分の1を中国以外で生産予定」としており、バングラデシュの重要性は高まるだろう。不当労働に対する世界の目は厳しい。ましてファーストリテイリングはグローバル市場を相手にしている。対応を誤れば、妙な誤解を招いて面倒に巻き込まれないとも限らない。