日本維新の会の橋下徹共同代表(大阪市長)が、自らのいわゆる従軍慰安婦をめぐる発言についてメディアに「誤報」されたと主張している問題で、名指しされた朝日新聞が「『誤報』の指摘はあたらない」との異例の反論記事を掲載した。
橋下氏は、これに先立つ囲い取材では「僕の認識として認めてもらいたい」と認識の違いを打ち出しており、議論のすれ違いが続いている。
囲み取材でも、誤報をめぐるやり取りが35分以上
発端となった発言は2013年5月13日の発言で出た。
この発言を毎日新聞は要旨として、
「慰安婦制度は世界各国の軍が活用した。朝鮮戦争やベトナム戦争でもあった。銃弾が飛び交う中で命をかけて走っていく時に、精神的に高ぶっている集団に休息をさせてあげようと思ったら、慰安婦制度が必要なのは誰でも分かる。韓国とかの宣伝の効果でレイプ国家というふうに見られてしまっているのが一番問題だ」
と記事化し、橋下氏も一度はツイッターで、
「かなりフェアに発言要旨を出している」
「この毎日の一問一答がある意味全て」
と評価していた。ところが、この発言が、
「橋下氏『慰安婦、必要だった』 村山談話巡り『侵略、反省・おわびを』」(5月13日朝日新聞夕刊・東京14版)
「橋下氏『慰安婦 必要だった』 与野党から強い批判」(5月14日毎日新聞朝刊・同)
といった見出しで報じられたことに対して、橋下氏は、
「14日か何かには、見出しで『必要』って書いたでしょ」(5月17日)
と激高。橋下氏が5月26日に「私の認識と見解」と題して発表した文章でも、
「『戦時においては』『世界各国の軍が』女性を必要としていたのではないかと発言したところ、『私自身が』必要と考える、『私が』容認していると誤報されてしまいました」
と、主語が誤って報じられたと主張していた。だが、どの点が具体的に「誤報」なのかはそれでも明確ではなく、5月28日の囲み取材でも、誤報をめぐるやり取りが35分以上続いた。
発言意図確認しなかった記者を非難「一言僕に問うてもらえれば…」
囲み取材での一連のやり取りの内容を総合すると、橋下氏の主張は「発言していないことが書かれている」という点に尽きるが、その中でも大きく2つの要素があるようだ。ひとつが、橋下氏の意図をきちんと確認しないまま見出しをつけたという主張だ。記者は、
「その後の夕方の(囲み取材の)発言と一続きで考えてしまう。そうなると、橋下さんを含めて『当時』必要だったと受け取らざるを得ない」
と、全体の文脈を踏まえた上で適切な見出しがついていると主張したが、橋下氏は、
「それは、だから記者が感じたことなので、一言僕に、その後の(囲み取材の)発言で『じゃあそういうことだったら慰安婦制度必要だったと考えているんですか?』と問うてもらえれば、『慰安婦制度が必要だ』なんて、そんなん言えるわけないじゃないですか」
「僕が発言していない、僕が『慰安婦制度が必要』なんて一言も言っていないことを、色んな全体の文脈から推測して、見出しに『慰安婦制度必要』と打つのは誤報だと思う」
と反論している。
ただ、「『戦時においては』『世界各国の軍が』女性を必要としていたのではないかと発言した」という市長の主張についても、「慰安婦制度が必要なのは誰でも分かる」とも発言しており、文脈を考えると、本人も必要だと考えていると受け止められてもおかしくない。
もうひとつが、「傍論」として述べたことが不当に大きく取り上げられたという主張だ。橋下氏は、問題の発言が出た経緯を説明する中で、安倍晋三首相や自民党の高市早苗政調会長の発言と対比しながら、
「僕はもう、『これは侵略として認めるべき』だと言った。そっちの方がメインの見出しになるべきだと思いますけどね、本来は。だって入社試験で13日の内容を200字以内にまとめろと言われた時は、そこ(従軍慰安婦に関連する部分)は問題点ではないことは明らかではないと思いますよ。要約すれば」
と述べた。
誤報主張も「僕の認識として認めてもらいたい」
また、橋下氏は両者の認識の違いについても言及している。橋下氏とメディアの議論は噛み合わない状態が続いている。
「ここはだから、そちらが(ネガディブ)キャンペーンじゃないと言っても、そうだという風に思っているし、徹底的に慰安婦問題について取り組まれてきた朝日新聞ですから、こだわりもあるでしょうし…。毎日新聞は、いまだに色んな見出しをつけながら事の本質を論じない報道になっている。これはまぁ、ある意味、報道の自由として僕は認めると言っている訳ですから、僕が誤報だと感じているというのも、僕の認識として認めてもらいたい」
「誤報」と指摘された朝日新聞も本格的に反論に転じており、5月29日の朝刊紙面には井手雅春・大阪本社社会部長の、
「橋下氏が『誤報』とした記事の見出しは、13日の発言が影響を広げている状況を客観的に表現したものだ。『誤報』の指摘はあたらない」
との談話を掲載している。