橋下発言を機に再びヒートアップしている「従軍慰安婦」をめぐる議論だが、今やYouTubeがその「戦場」と化している。日本・韓国側の双方が、国外に向けて自らの主張をアピールする動画を投稿し合っているのだ。
「Demythologization of the myth of the Comfort Women(慰安婦神話の脱神話化)」
最近、上記の動画が日本ネットの一部で話題になっている。
抗議で動画が消されることも
投稿者は「WJFプロジェクト」を名乗る日本のユーザーで、以前からYouTubeを通じて韓国などの「反日プロパガンダ」に対し、日本側の主張を反論し、相手国を批判する動画を複数の言語で公開している。
この動画でも日本語版に加え英語版が作成されており、資料などを元に「こうした事例は日本に限らず各国にあった」「一部の日本兵や業者の不法行為、また貧困により不本意な形で慰安婦になった人もいたが、それは少数」などと主張する。一方で元慰安婦に対しては同情する姿勢も示すなど、できるだけ中立的な態度を取ろうという姿勢も示している。
動画は2012年に一度投稿されたが、複数のユーザーが「不適切な動画」との申し立てをしたため、一旦削除された。その後2013年3月28日に再投稿され、現在までに約9000回投稿されている。コメント欄には英文の投稿が多く寄せられ、
「この動画が一時削除されたのは残念でした。私は真実を知りたい。この動画に感謝します」(カナダ)
「どれだけ多くの国々が教育現場で嘘を教え込んでいるか――信じられません。私の学校も反日的でした。でも、いい日本人の先生もいましたよ」(オーストラリア)
といった感想が見られる。ツイッターなどでは日本ユーザーが海外にこの動画を広めようと「拡散」に励み、特に橋下発言が騒動となったここ2週間ほどはそれが加速している。
こうした海外に目を向けた「慰安婦動画」は、同作に限らない。ほかにも、中山成彬衆院議員が国会で慰安婦問題に言及した動画に英語字幕を付けたものなど、海外に日本の主張を伝えようとする動画がここ最近だけでも複数投稿されている。
12歳の幼さで「姓奴隷」にされた女性の悲劇を英文字幕で感傷的に語る
こうした動きの背景には韓国側が米国など海外に対し、「慰安婦碑」の設置などを通じ自国の主張を猛アピールしていることがあると見られる。2013年に入ってからだけでも、1月にはニューヨーク州上院、3月にはニュージャージー州下院、そして5月7日にはニューヨーク州下院で慰安婦問題を非難する決議が採択されるなど、日本への「包囲網」は着実に狭まりつつある。
もちろんYouTubeでも、韓国側による「慰安婦動画」が複数公開されている。ネット上での「反日的」活動で有名な民間団体「VANK」が投稿した「Comfort Women(慰安婦たち)」は、12歳の幼さで「姓奴隷」にされた女性の悲劇を、英文字幕で感傷的に語る。こちらにもやはり韓国以外のユーザーから、日本を非難するコメントが寄せられている。
もっとも日韓ともに、こうしたYouTube上での「情報戦」が実を挙げているかはいささか怪しい。コメント欄に寄せられている多量の英文コメントも、よく見れば多くは日本、あるいは韓国のユーザーで、両者が自らの主張を伝えたい英語圏のユーザーはむしろ稀なくらいだ。上述したツイッター上での日本の「拡散運動」も、盛り上がっているのは日本で、海外に広く伝わっているとはいえない。