「日本の標準時を2時間前倒ししてはどうか」――。東京都の猪瀬直樹知事が2013年5月22日に開かれた、アベノミクスの成長戦略を検討する政府の産業競争力会議で、そんな提案をした。
猪瀬知事の提案によると、日本の標準時を2時間早める「東京標準時間」を設けることで、東京の金融市場を「世界で最も早い時間帯から取引の始まる市場」にできる、という。
東京、ロンドン、NYで「24時間カバーできる体制」にする
猪瀬知事は「東京標準時間」で金融市場を活性化しよう、と提案した。(2013年5月2日撮影)
日本の標準時が2時間早まると、東京と香港やシンガポールとの時差は現在の1時間から3時間に広がる。東京証券取引所の取引開始時刻の午前9時は、現行の午前7時にずれるので、早朝の時間帯になる香港やシンガポールでは朝の東京市場をカバーできなくなる。おのずと東京にオフィスを構えざるを得なくなり、海外に流出した拠点機能を東京に呼び戻す、という。
米ニューヨーク市場が終わる時間に東京市場が開くようにすれば、結果的に世界市場はニューヨーク、東京、ロンドンで8時間ずつ、24時間カバーできるような体制になると説明。それにより、世界の金融市場で東京の存在感が高まるとしている。
東京市場より早く取引が始まるのは現在、オセアニア市場がある。オーストラリア証券取引所(ASX)の取引時間は日本時間で8時~14時(現地時間10時~16時)で、東証より1時間早くスタートする。また、ニュージーランド証券取引所(NZX)はもっと早く、日本時間の5時~12時にあたる時間が取引時間となっている。東証より4時間も早く取引を開始しているのだ。
もし、日本時間が2時間早まれば、NZXよりは遅いとしても、主要市場であるASXよりも早く、東証が取引を開始できる。
猪瀬知事は、「東京市場の活性化すれば、海外から富が流入し、日本企業にお金が回る。賃金が上昇して雇用が増え、消費が刺激されてデフレ脱却につながる」と、メリットを強調する。
「取引所の開始時間を早めればいい」の声も…
猪瀬知事が指摘するように、日本の標準時は1886(明治19)年に定めて以来、変更していない。しかし、海外では政府の判断で標準時を変えた例がある。
ロシアのウラジオストクは2011年、夏期に実施されていたサマータイム(プラス1時間)を、通年の標準時(プラス2時間)に変更した。シドニーでは1971年にニューサウスエールズ州がサマータイムを実施した際、夏期を1時間早めている。
ちなみに、日本の標準時を2時間早めると、ロシアのウラジオストクなどと同じ時刻(英国のグリニッジ標準時から11時間早い時間)になり、その一方で現在、時差のない韓国や北朝鮮とは2時間の時差が生じることになる。
もちろん、標準時を変更するとなると国民生活への影響もあるだろう。日本人がこれまでなじんできた時間帯をあえて変更しなくても、「取引所の開始時間を早めればいい」との声は少なくない。
東証は、「(取引時間の変更は)法整備はいりませんが、システムの対応が必要なので証券会社などの理解を得る必要があります」という。東証では2011年11月21日に、午前の取引時間を30分延長し9時から11時30分とした。それでさえも「実施までに、かなりの時間を費やしました」と、なかなか難しそう。
仮に標準時を2時間前倒ししたとしても、「海外投資家への影響は、まだわかりません」と、メリットの有無は定かでない。