国連の委員会が、慰安婦ヘイトスピーチが繰り返される状況を改善するよう日本政府に求めたと、朝日新聞が最初に報じ、ネット上で論議になっている。しかし、報道がやや誤解を生んでいる面もあるようだ。
国連の要請について、朝日新聞は2013年5月22日付朝刊の全国版社会面で大きく報じた。韓国メディアも朝日の記事を後追い報道している。
朝日新聞の報道だと、規制を要請と読める?
要請は、日本も加入している国連の条約名がついた社会権規約委員会が21日に審査報告書をまとめて発表したものだ。
報告書では、日本政府に対し、排他的グループが慰安婦へのヘイトスピーチを繰り返すなどしている状況を指摘し、「国民を教育して、ヘイトスピーチや汚名を着せる表現を防ぐように」と求めた。さらに、慰安婦だった人については、「経済、社会、文化的な権利や補償に悪影響を与えることを憂慮する」として、必要な措置を取ることも促している。
要請について、朝日の記事では、社会権規約委員会が日本政府に対し、「慰安婦をおとしめるような行為をやめるよう」改善を求めたと報じた。
この報道では、国連がヘイトスピーチを規制するよう求めているようにも受け取れるということで、ネット上で議論になった。
静岡大の小谷順子教授(憲法学)は、議論を受けてか、ブログで23日、規制の合憲性についての議論を紹介した。
そこでは、イギリス、フランスなどは法律で規制しているものの、日本やアメリカは表現の自由に触れるとしてそうしていないと指摘した。もし規制する場合は、人種や民族への脅迫や名誉毀損に問えるようにしたり、デモの許可条件を厳格化したりすることが考えられるとした。被害者救済のための人権法制定も別のやり方だという。しかし、法規制することで、ヘイトスピーチをしていた人たちが犯罪に走るなど、デメリットも考えないといけないとしている。
外務省「要請に規制のニュアンスはなかった」
ところで、国連の社会権規約委員会が最終的には、日本政府に規制を求めていると受け止めていいのか。
外務省の人権人道課では、委員会から2013年5月21日にヘイトスピーチについて勧告する内容の報告書が届いたことを明らかにした。そこでは、規制をしてほしい、取り締まりをするように、といったニュアンスはなく、ヘイトスピーチを防止するために、慰安婦について一般公衆を教育するようにとの要請だったとした。
朝日の報道については、人権人道課では、「防止目的はそうですので、間違いとは申し上げませんが、正確に言えば、教育して下さいというのが趣旨でした」と言っている。
委員会の審査では、日本政府としても主張し、慰安婦問題については教科書に書いてきちんと教育していると説明したとした。また、慰安婦は条約に加入する前のことで、審査の対象にはならないと述べたという。ヘイトスピーチ規制などの要請があったかについては、「そういった聞き方はされていません」と否定している。
委員会の要請を受けて今後どうするかは、国内的な問題になるので、関係する省庁が対応することになるという。
なお、国連では、別の拷問禁止委員会が日本維新の会代表の橋下徹大阪市長の慰安婦発言について日本政府の見解を求める事態にもなっている。