「特撮を我が国の文化に」庵野秀明監督も訴え 失われるクールジャパンの「源泉」、保全難しく

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   「どうか、助けてください。特撮、という技術体系が終わろうとしています」―――人気アニメ・新世紀エヴァンゲリオンの監督として有名な庵野秀明氏が、「特撮」の保護を求めてこんな呼びかけをしている。

「国でも自治体でも法人でも企業でもいいんです、どうか、僕らに創造と技術を与えてくれた特撮を、どうか助けてください。お願いします」

「アニメ、コミック、ゲームといった日本のメディア文化の源泉」

   森ビル株式会社は2013年5月16日、「平成24年度 メディア芸術情報拠点・コンソーシアム構築事業 日本特撮に関する調査」を公開した。庵野秀明監督と樋口真嗣監督が全体監修と序文を担当し、特撮監督の尾上克郎氏、国際グローバルコミュニケーションセンターの酒井真良氏、アニメ特撮研究科の氷川竜介氏、特技監督の三池敏夫氏が調査、執筆した。

   それによると、とりわけCG導入以前の、ミニチュアワークと光学技術によるアナログ技法の「特撮」が「危機的な状況にある」とされている。

   特撮は日本の国家戦略「クールジャパン」でもてはやされるアニメーション文化と、密接な関係がある。1950年代から日本特有の精密な映像技術として、ある時期までアニメと相互に技術を取り入れ、影響を与えあいながら、歩調を合わせて進化してきた。さらに、現在特撮以外の分野で世界的に活躍するクリエイターにも、多大な影響を与えている。

   それは、庵野氏や樋口氏が「特撮ファン」を自称することだけではなく、スティーブン・スピルバーグ、ジェイムズ・キャメロン、クエンティン・タランティーノ、ティム・バートン、J・Jエイブラムスといった世界の名だたる映画監督が「ゴジラからの影響」を公言していることからも明らかだ。

「想像力と技術によって生み出された自由な空想世界の遺産を、現在のアニメ、コミック、ゲームといった日本のメディア文化の源泉として、未来に受け継いでいきたい、と考えます」(樋口監督)

   ところが最近では、「特撮」だけがCGの活用やデジタル化によって、人的にも技術的にも日々失われつつあり、ミニチュアや造形物の保全も難しい状況に追い込まれているのだという。

「貴重な遺産として保護することが急務」

「『特撮』を我が国の文化として認識し、貴重な遺産として保護することが急務である」(尾上氏)

   その理由として挙げられるのは、第一に、高齢化と、ミニチュアなどを新作する機会がなくなったことによる、技術継承が進まない現状。そして、アナログ時代の特撮用に作られた着ぐるみ、ミニチュアや小道具などの「遺産」が、「第一級の現代美術品と言えるものも少なくない」(尾上氏)にも関わらず、物品資料として組織的に保護されていないことだ。2005年ごろからはじまった各映画会社のスタジオ再編などにともなう倉庫整理で、すでに廃棄処分の憂き目にあったものが多くあり、今後も経済的理由などで処分される可能性は非常に高い。それ以外の貴重品は、もっぱら個人収集家のコレクションとして保管されている。尾上氏は「早急にこれらの物品資料の保護対策をとるべきであろう」と指摘する。

   庵野監督もこう協力を呼びかけている。

「その技術と製作現場で続ける為に抗い、その技術と文化を後世に残すために保存したいと切に思います。ぼくがもらった夢を次世代にも伝え、残したいと切に考えます。それは、個人では、きわめて困難な目標であり事業です。(・・・)特にミニチュア等の保存に関しては可能な限り速やかに助けて下さい。よろしくお願いします」

   クールジャパンは、もともとは日本独自の文化が海外で評価を受けている現象、またはその日本文化のことで、主にマンガやアニメ、渋谷・原宿のファッションなど、ポップカルチャーを指していた。最近では食文化なども含めて、政府が「クール・ジャパン」輸出戦略に力を入れており、2013年度は計500億円の予算を計上。海外展開支援、輸出の拡大、人材育成や知的財産保護などの事業を、官民一体となって展開する。ただ、特撮がこの範疇に入ることができるのかは不明だ。

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