2013年5月22日、朝5時。新聞配達員の男性(61)は朝刊の束を手に、あるマンションに足を踏み入れた。ところがそこには、まだ日も出たばかりの時間にもかかわらず、一人の男性が立っていた。
「お前、日本人か」
男はそう聞いてきた。年齢は30代か、異様な雰囲気を漂わせる、大柄で太り気味の男だ。男は直後、配達員の男性に包丁で襲い掛かった――
刃物片手に商店街をうろうろ
大阪市生野区で起こった通り魔事件は、凶行に及んだ韓国籍の男性(31)が「日本人なら何人でも殺そうと思った」などと供述していることもあり、大きな注目を集めている。生野署の発表、また各テレビ局などが報じた目撃者の証言などを総合すると、事件は以下のような推移をたどったものと推測される。
事件が起きたのは、近鉄今里駅に近い一角だ。現場から3分ほど歩いたところには旧遊郭として知られる今里新地があり、また近隣には鶴橋や生野コリアタウンもある。駅に近いこともあってちょっとした住宅街ともなっており、第一の事件が起きた現場周辺には、小さめのマンションが立ち並ぶ。
現場もそうしたマンションの1つで、包丁男はその住人だった。腹部に刃を突き立てられた男性は、死に物狂いでその場から逃げ出した。そして午前5時18分、血を流しながらも「男に刺された!」と自ら110番した。
一方の男は血にまみれた包丁を鞘代わりのビニール袋に入れて、すぐそばの商店街まで歩いていった。商店街といっても、車2台がようやくすれ違う程度の小さなものだ。男は、充血した目をぎらつかせながら、道行く人に片端から声をかけて回る。
「日本人か」
ただならぬ様子を不審がりながらも、ある男性は「そうやで」と応じた。すると男は、おもむろに袋から包丁を抜いたという。男性は慌てて自宅に逃げ込み、難を逃れた。
うろつく包丁男に町の人々がざわつき始めたころ、男性は清掃員の女性(63)に話しかけた。男性の110番から6分後、午前5時24分のことだ。
「生粋の日本人か」