新聞には、ときどき「○○報告書の原案が明らかになった」という記事が各紙いっせいに出ることがある。一紙のみであれば、その取材活動であろうが、各紙にでるときは、役所からのリークである。
このような記事を書くマスコミは、役所から情報をもらっている以上、批判や分析はなく、役所のいうとおりに書くので、役所の広報そのものである。報告書の引用箇所もほとんど同じなので、役所からのレク(説明)を受けて、その言いなりというのが痛いほどわかる。役所の意図としては、地ならしである。多くの人は新聞情報を鵜呑みにするので、ああこんなものかと思わせ、報告書がでたときに受け入れられるようにするためだ。週末または週明けに新聞に出るようにマスコミに仕込むのが多い。
緊縮財政への反省
先週末から今週初めにかけて、財務省によると思われるが、財政制度等審議会が今月(2013年5月)内にまとめる報告書のリークがあった。
財務省が言いたいのは、消費税増税のスケジュール通りの実行である。最近、緊縮財政のバイブル的存在であったラインハート・ロゴフ論文に誤りが見つかるなど、緊縮財政への反省が欧米では多くなっている。IMFもかつてほどには緊縮財政を言わなくなっている。ちょっと前では、増税して財政再建の姿勢をみせないと国債の信認が失われて金利が急騰するという脅し文句はそれなりに説得力があったが、今では財政再建を急ぎすぎるとかえって景気の腰を折り、財政再建が遠のくという意見のほうが多くなっている。
最近では、リーマンショック以降、量的緩和で景気回復してきたイギリスで、消費税増税すると景気が悪くなっているのも、緊縮財政への警鐘になっている。そうした論陣の急先鋒は、ノーベル経済学賞学者のクルーグマン・プリンストン大教授だ。
財務省がおそれているのは、そうした世界の流れだ。もっとも、そのロジックは前と同じで陳腐で、とても最近の世界の流れに付いて来られない。例えば、増税しないと金利が上昇し、金融機関のバランスシートを毀損させて経済に大きなダメージになるとかいうものだ。
自身の業界には軽減税率要求する「虫のいい」新聞
皮肉にも、それは今の金利上昇でも、金融機関収益が過去最高になっているという事実で否定される。株高や投信販売手数料収入増加によって、債券の価格低下のマイナスが打ち消されてしまったのだ。
しかも、アベノミクスの第一の矢で、デフレ予想からインフレ予想に変わった。その結果、実質金利(=名目金利-予想インフレ率)は、1年前の0%程度から現在ではマイナス1.4%程度に下がっている。であれば、実体経済に好影響を与える。現に実体経済がよくなっているのに、まるで正反対のことを言っては説得力なしだ。
消費税増税については、新聞各紙は完全に財務省と同じ方向だ。その一方で、新聞は軽減税率を要求して、虫のいい話だ。新聞の軽減税率のために、2年ほど前には盛んにイギリスの消費税の報道をしていたが、増税後にイギリス景気が悪くなると、パタとイギリスの報道はなくなった。その上、財務省のリーク記事がならび、本稿のような本質的な批判はまずみられない。困ったものだ。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2005年から総務大臣補佐官、06年からは内閣参事官(総理補佐官補)も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「財投改革の経済学」(東洋経済新報社)、「さらば財務省!」(講談社)など。