ホンダが2008年の撤退以来、7年ぶりに自動車レースの最高峰であるF1に復帰する。2015年から英マクラーレンにエンジンを供給する形での参戦となる。
かつてチームを組み黄金時代を築いた「マクラーレン・ホンダ」が再びサーキットに戻ってくるとあって、モータースポーツファンからは歓迎の声が湧き上がった。
マクラーレンとタッグ再結成
ホンダは1964年にF1に初参戦以降、撤退、再参戦を繰り返し、今回は4回目の挑戦になる。過去3回は計72勝したが、今回の復帰でエンジンを供給することになったマクラーレンとは1988~92年にタッグを組み、88年には16戦中15勝するなど通算44勝をあげ、黄金期を築いた。故アイルトン・セナなどの名ドライバーを擁し、その圧倒的な強さから日本でもF1が最も人気を博した時期だった。
復帰を決めたホンダの伊東孝紳社長は5月16日に東京都内で記者会見し、「ホンダはレースに参戦し、勝利することで成長してきた企業」と復帰への思いを語った。会見に同席したマクラーレンのマーティン・ウィットマーシュ最高経営責任者(CEO)も「求められるマシンの低燃費化を実現する技術を持っている」とホンダとのタッグ再結成に期待を込めた。
2000年に3回目の参戦をしたが、2008年のリーマン・ショックにより業績が急激に悪化したため撤退。だが、金融危機や東日本大震災などを乗り越え、2013年3月期の売上高は前期比24.3%増の9兆8779億円に持ち直し、2014年3月期も同22.5%増の12兆1000億円を見込む。復帰を判断した一番のポイントは業績が改善したからだ。
ハイブリッドに似た技術も搭載
加えて、F1のエンジンルールが2014年から変更されることも復帰を強く後押しした。今のF1は市販車とかけ離れた特殊な技術が使われ、F1で得た技術を市販車に転用したい自動車メーカーには参戦メリットが小さくなっていた。ルール変更に伴い、現行のV型8気筒で排気量2400ccのエンジンは、V型6気筒でターボ付き1600ccへとダウンサイジングされる。減速時のエネルギーをバッテリーに蓄えて再利用するエネルギー回生システムなど市販のハイブリッドに似た技術も搭載される。
こうした技術は特に欧州の低燃費車に採用されているが、伊東社長は「F1で得た技術を量産車に波及させたい」と参戦の狙いを力説。若い技術者の育成にもつなげたい考えだ。また、最近はアジアや中東など新興国でレースが開催される傾向にあり、F1人気も高まってきている。参戦によってホンダブランドを浸透させ、新興国市場でのシェアを拡大したいとの思惑もある。
問題は、やはり費用だ。F1は開発費として年間数百億円が必要とされ、前回は業績が悪化する中で苦渋の撤退を決断した経緯がある。「社内でも十分に議論を尽くし、取締役会でも全員一致で承認された」(伊東社長)というが、社内には「このまま業績が好調に推移する保証はない」(関係者)と復帰を疑問視する声は依然くすぶっているといわれる。それだけに戦績や新興国市場などで目に見える効果がない場合、撤退論が再燃する可能性もある。