ハイブリッドに似た技術も搭載
加えて、F1のエンジンルールが2014年から変更されることも復帰を強く後押しした。今のF1は市販車とかけ離れた特殊な技術が使われ、F1で得た技術を市販車に転用したい自動車メーカーには参戦メリットが小さくなっていた。ルール変更に伴い、現行のV型8気筒で排気量2400ccのエンジンは、V型6気筒でターボ付き1600ccへとダウンサイジングされる。減速時のエネルギーをバッテリーに蓄えて再利用するエネルギー回生システムなど市販のハイブリッドに似た技術も搭載される。
こうした技術は特に欧州の低燃費車に採用されているが、伊東社長は「F1で得た技術を量産車に波及させたい」と参戦の狙いを力説。若い技術者の育成にもつなげたい考えだ。また、最近はアジアや中東など新興国でレースが開催される傾向にあり、F1人気も高まってきている。参戦によってホンダブランドを浸透させ、新興国市場でのシェアを拡大したいとの思惑もある。
問題は、やはり費用だ。F1は開発費として年間数百億円が必要とされ、前回は業績が悪化する中で苦渋の撤退を決断した経緯がある。「社内でも十分に議論を尽くし、取締役会でも全員一致で承認された」(伊東社長)というが、社内には「このまま業績が好調に推移する保証はない」(関係者)と復帰を疑問視する声は依然くすぶっているといわれる。それだけに戦績や新興国市場などで目に見える効果がない場合、撤退論が再燃する可能性もある。