「消費税還元セール」などと銘打った安売りを禁止する「消費税転嫁法案」が今国会で成立することが確実になった。国会審議では、禁止するセールの表現をめぐって政府が答弁を変更するというすったもんだの挙句、法案修正を経て2013年5月17日に衆院本会議で可決されて参院に送られた。
中小の納入業者が大企業から消費税分の価格上乗せを拒否される「下請けいじめ」を防ぐという目的だが、効果を疑問視する声も上がり、来年4月の消費税率引き上げの際には小売り現場などで混乱は避けられそうもない。
セールの禁止表現が焦点に
法案の目的は、スーパーなど大手業者の納入する中小業者が、消費税増税分を卸値にきちんと転嫁できるようにすること。このため、仕入れる際、消費増税分の価格上乗せを拒否すること禁止。さらに仕入れ値の減額を要求し、それを原資にセールを行うのを防ぐため、「消費税還元」などのセールの表現を禁止した。さらに、中小企業グループが相談して税率アップ分の転嫁を決める「価格カルテル」も例外的に認める規定も盛り込んだ。
日本商工会議集などの調べで、1997年に税率が3%から5%に引き上げられた際、売上高5000万円以下の小規模事業者の半分以上が、消費増税分を転嫁できなかったといい、同じことが起きないように、今回の法案が作られた。
法案審議で具体的に焦点になったのは、セールの禁止表現だった。政府は「消費税」の言葉が広告・宣伝に入るのを禁ずるほか、当初は、値引き幅が消費増税分と同じ「3%値下げ」や、増税時期と重なって「生活応援セール」などをすることも含め、広範に規制する方針だった。
反対派から「ザル法」の批判
ところが大手スーパーなど小売業者が猛反発、野党にも反対論が根強かったことを受け、5月8日、政府は「消費税」という文言などがなければ原則禁止しないとの統一見解を示した。17日の衆院経済産業委員会では、安倍晋三首相が「事業者の努力による価格設定自体を制限するものではない」と理解を求め、最終的に自民、公明、民主が、禁止表現の範囲を条文で厳格化する修正案を共同提出し、可決にこぎつけた。
しかし、みんなの党や日本維新の会、共産党などは最後まで反対し、17日の衆院本会議でも「消費税という文言をセールに含まなければ基本的に規制なしで、ほぼザル法だ」などの反対討論も出るなど、難航を重ねた。
実際、税率アップの暁に、すべての商品が一斉に3%分上がるといった事は考えにくい。アベノミクスで物価上昇を目指しているが、「来年春の増税時点でデフレから脱却しているとの見方は少なく、商品価格を上げにくい状況は変わらない」(経済産業省筋)とみられる。小売り大手は、具体的な各政策は来春の状況を見極めて最終判断するが、ユニクロを運営するファーストリテイリングのように「表示価格は据え置く」との方針を示す業者もいる。価格に敏感な消費者に逃げられないように、ということだ。
そのために、コスト削減努力をすることになるが、一般的な値上げか、増税分の転嫁か、逆に一般的な値下げか増税分の転嫁なしか、現実に線引きは難しい「グレーゾーン」になる。
臨時職員で監視できるか
ある電機の部品下請けの町工場経営者は「いつも、値下げはあくまで部品納入業者側が『自主的に』申し出た形で行われ、そうしなければ仕事を切られる」と語る。
もちろん、政府は、違反取り締まりや監視強化にも努める。具体的には、公正取引委員会と中小企業庁で約600人を臨時採用し、大企業による優越的地位を使った価格転嫁拒否を強力に監視するとしている。
値引き要求などは、増税時以外の「平時」にもあり、これらは現行の「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」などで規制できる。公取委は2011年度に同法違反行為に対し、勧告18件、指導4326件を行っている。むろん、氷山の一角でしかないが、先の町工場の例のように、巧妙なやり方は簡単に見破れるものではなく、従来の取引実態をみながら判断することになり、「経験が必要な一種の"熟練の技"であり、臨時職員ではで無理」(公取委OB)といわれる。
「来年の増税時は相当の混乱が避けられない」(中小企業団体幹部)との懸念はなかなか払拭できないようだ。