情報の出所は編集部にもわからない
ニューヨーカー誌の編集者エイミー・デビッドソンによれば、ストロングボックスは「弊誌の住所の延長」という位置づけになる。同誌の調査報道の歴史のなかで、1925年の創刊号では編集局の住所が印刷されていたので、告発者は機密情報を郵送することができた。その後、電話が主流になり、そして1990年代末には電子メールの利用が始まったが、デジタル時代の匿名性の庇護が最大の課題になっていた。
ストロングボックスではTor(The Onion Routerの略称)と呼ばれる匿名技術が使われ、データの暗号化だけでなく、通信の際に異なるプロキシーサーバーを使ってアクセスするので情報の出所が特定できないようになっている。「編集局に送られてきた情報の出所は我々にも分からないので、流出先を明らかにしろと言われても答えようがない」とデビッドソンは同誌サイトで述べている。編集局と情報提供者の連絡もいわばブラックボックスであるストロングボックスの中でのみ行われるので、高度の匿名性が確保されるという。
ウィキリークスのような無責任な垂れ流しモデルでなく、ファクトチェックの検証能力や編集技術を付加価値にするニューヨーカー誌に不正の裏幕をリークしようとする人が出てくるだろうか。これからの同誌に注目してみよう。
(在米ジャーナリスト 石川 幸憲)