日本維新の会の橋下徹共同代表(大阪市長)は2013年5月17日の囲み取材で、
「(正式な)記者会見しかやりません。今回は大誤報をやられたんで。まぁでも、これから米国としっかり折衝できるのである意味ありがたい」
と、今後は囲み取材を打ち切ることを一方的に宣言した。慰安婦制度について「必要」という言葉がどのような文脈で使われたかをめぐる記者とのやりとりが「挙げ足取り」だとして激高した末の宣言だが、どこが「大誤報」だったのかは必ずしも明らかではない。
毎日新聞の一問一答記事を「かなりフェア」と評価していた
問題の発端は橋下氏の5月13日の発言。この発言を毎日新聞のウェブサイトでは、
「慰安婦制度は世界各国の軍が活用した。朝鮮戦争やベトナム戦争でもあった。銃弾が飛び交う中で命をかけて走っていく時に、精神的に高ぶっている集団に休息をさせてあげようと思ったら、慰安婦制度が必要なのは誰でも分かる。韓国とかの宣伝の効果でレイプ国家というふうに見られてしまっているのが一番問題だ」
と報じた。橋下氏自身も、5月14日のツイートでこの記事にリンクを張っており、「かなりフェアに発言要旨を出している」「この毎日の一問一答がある意味全て」と評価していた。この経緯については、「大誤報」発言を報じた毎日新聞の記事の中でも紹介されているが、橋下氏は5月18日のツイートで、この記事にリンクを貼って、
「毎日新聞は、当初はきちんと報道していたと僕が評価していたのに、今頃誤報とはなんだ!と言う論調。毎日は頭が悪いからな。最初の一問一答をじっくり見て、200字以内で要旨をまとめてみろ。高校入試レベルだ」
と罵倒。どの点が誤報かは明らかではない。
「見出しで『必要』って書いたでしょ」
ただし、5月17日の囲み取材では、記者が会見の詳細についても紙面やウェブで紹介したのに反論する形で、橋下氏が、
「14日か何かには、見出しで『必要』って書いたでしょ。じゃあちゃんと普通にその詳細版を書いたらいいじゃないですか。『当時』って言葉を外しているじゃないですか」
と不満を述べている。東京本社最終版の紙面を見る限りでは、朝日新聞が5月13日夕刊1面で「橋下氏『慰安婦、必要だった』 村山談話巡り『侵略、反省・おわびを』」と報じたのに続いて、毎日新聞が5月14日朝刊1面で
「橋下氏『慰安婦 必要だった』 与野党から強い批判」
という見出しをつけている。本文の内容にかかわらず、これらの見出しについて「誤報」だと主張している可能性がある。
また、橋下氏は、
「僕は慰安婦を容認したことは一度もありませんし、英語を喋ることができないもんですから、その『必要』という言葉で、僕が慰安婦制度を認めたっていうことで、世界にそういうニュース発信されてますけど、僕は慰安婦制度を容認する、そんなことを言ったことは一度もありません」
と、海外メディアへの不満も口にした。
国務省会見で朝日記者は「性奴隷」と質問していない
なお、橋下氏のツイートにも「誤報」とみられる内容がある。5月19日のツイートでは、
「世界のメディアは自国が侮辱されたときには徹底して抗議する。ところが朝日新聞はあろうことか、わざわざ日本国を貶めるようなことを世界でやる。性奴隷と慰安婦は、世界からすると全く別概念。ところが、朝日のワシントン記者は、米政府報道官にわざわざ日本が『性奴隷』と使っていたと質問する」
と朝日新聞を批判している。だが、5月16日の米国務省の会見では、朝日新聞の記者は、
「大阪市の橋下市長が最近、いわゆる『慰安婦』(comfort women)問題についてコメントし、(慰安婦は)倫理的観点からは受け入れられないが、戦時中は慰安婦は必要だったと主張した」
と発言している。「性奴隷」(sex slave)という言葉は使っておらず、「戦時中は」と断ったうえで「慰安婦」という言葉を使っている。
橋下市長が主張する誤報とはいったいなんだったのか。