マツダが4年半ぶりにトップ交代する。小飼雅道取締役専務執行役員(58)が社長兼最高経営責任者(CEO)に昇格し、山内孝会長兼社長兼CEO(68)は会長職に専念する。2013年3月期に5年ぶりに最終黒字に転換したことから、経営体制の若返りを進め、さらなる収益改善を目指す。
ただ、日本メーカーの中では国内生産比率と輸出依存度が高く、黒字化も円高修正のおかげという側面が強い。小飼新体制は為替に影響されない収益構造への転換が待ったなしだ。
低燃費技術が高い評価受ける
山内氏は5月9日のトップ人事を発表した会見で、小飼氏について「何事にも動じないバランスのとれた人材」と評価した。1977年に入社し、主力生産拠点の山口県の防府工場長やタイ工場社長を務めるなど生産畑を中心に歩んできた小飼氏は「グループをあげて取り組んでいる構造改革に全身全霊であたりたい」と意気込む。
経営体制の若返りを進め、今後の巻き返しを狙うマツダだが、ここまでの道のりは平坦ではなかった。リーマン・ショック直後の08年11月に社長に就いた山内氏は09年3月期~2012年3月期まで4期連続で最終赤字を計上し、株価も100円台前半で低迷するなど厳しい経営環境に直面。コスト削減の一方、技術開発に努め、低燃費技術「スカイアクティブ」は高い評価を受ける。
山内体制の集大成ともいえる13年3月期は、販売台数が123万5000台と、欧州や中国の不振で前期より1万2000台減ったものの、出荷台数の増加や車種構成の改善などにより、売上高は同8.5%増の2兆2052億円と増収を確保。最終利益は343億円と5年ぶりに黒字転換を果たし、14年3月期の黒字額もさらに倍増の700億円を見込むまでになった。ただ、同社は円安方向に1円動くと営業利益が約35億円押し上げられるとされ、2013年3月期の為替レートは平均で1ドル=83円と前の期より4円の円安だったので、これだけで利益が100億円以上押し上げられた計算になる。
海外生産比率の押し上げ急務
為替に大きく左右される体質は、マツダの国内生産比率が7割と他メーカーより高く、うち8割を輸出しているからだ。
1979年に米フォード・モーターと資本提携し、フォードの子会社として国内生産に特化していたためだが、2008年のリーマン・ショックで経営悪化したフォードがマツダの経営から手を引いて後ろ盾がなくなると、以降の円高でマツダの経営は急速に悪化した。
その苦しい時期に社長を務めた山内氏だけに4月26日の決算発表の席で「為替環境に耐えられる構造改革をやる」と海外生産を急ぐ考えを改めて示した。「国内と海外の生産比率を50対50にするのが最終目標」(山内氏)で、昨年3月に公募増資などで約1400億円を調達し、海外生産拠点のメキシコ工場建設に投入するなど海外シフトを進めている。小飼氏を中心とする次の世代が、この改革路線を引き継ぐ。
ただ、自動車業界では環境技術を軸に、トヨタ自動車と独BMWが提携するなど国境を越えた合従連衡が進み、海外シフト強化だけで、厳しさを増すグローバル競争に勝ち残れる時代ではなくなってきている。このまま様々な改革を続けたとしても資金力に劣るマツダが単独で生き残るには、相当な困難を伴う。このため、「かつてのフォードのようなパートナー探しが急務」(業界関係者)との見方が一般的で、世界的な業界再編の焦点の一つになる。