安倍晋三首相が試乗した航空自衛隊の曲芸飛行隊・ブルーインパルスの機体に、「731」という数字が書かれていたことが、韓国メディアを騒がせている。
生体実験などをおこなっていたとされる旧日本軍の「第七三一部隊」を連想させるとして、「挑発だ」と怒っているのだ。
韓国大使も「気配り」を注文
安倍晋三首相は2013年5月12日、東日本大震災の津波で被害を受けた航空自衛隊松嶋基地を訪問し、曲芸飛行チーム「ブルーインパルス」の練習機に試乗した。それを報じる写真に、機体番号の「731」が映りこんでいた。
これが、韓国メディアにとっては旧日本軍の第七三一部隊を連想させるという。大手出版社が運営するネットの百科事典・kotobankによると、第七三一部隊は第二次世界大戦中に中国東北部・ハルビンに拠点をおき、ロシア人、中国人、モンゴル人、朝鮮人らの捕虜に対して、生物化学兵器などの生体実験をおこない、多数の死者を出したとされている。
14日になって、韓国の夕刊紙・文化日報が取り上げたことを皮切りに、中央日報や朝鮮日報が「もし安倍首相と航空自衛隊が歴史的な事情を知りながら『731』という数字を選んだのであれば、これは他人の傷を意図的にほじくり返す行為と何ら変わりがない」(朝鮮日報、15日付社説)などと、相次いで批判を書き立てた。日本政府はそんな意図はないと否定しているが、安倍首相が5日、東京ドームに背番号「96」のユニホームを着用して登場し、憲法第96条の改正をアピールしたとされていることから、今回の数字も意味を深読みされてしまったようだ。
ネットでの騒動を受け、15日には韓国の申※(※=王ヘンに玉)秀駐日大使が記者会見で、侵略の加害者である日本側はこうした点でも「気配り」をしなければならないと注文を付けた。中国外務省の洪磊報道官も14日の記者会見で「旧日本軍731部隊の犯罪行為は今もアジア近隣諸国に現実的危害を与えている。日本が侵略の歴史を徹底的に反省することを望む」と述べていた。
この韓国の反応は、海外メディアにも波及、ロシアや中国で報じられたほか、アメリカの外交・経済専門誌ネルソン・レポートでも取り上げられた。また、仏ルモンドは記者ブログで、「ドイツのアンゲラ・メルケル首相がナチスのハーゲンクロイツの書かれた機体に笑顔で乗るようなもの」とする鄭夢準(チョン・モンジュン)セヌリ党前党首の発言を紹介し、従軍慰安婦と絡めて日本の戦後謝罪について批判的な論を展開している。
首相が乗った理由「731は隊長機だから」
ただ、日本は数字に意図はないと否定している。菅義偉官房長官は15日午前の記者会見で「あえてそんなことをするはずがない」と述べた。
航空自衛隊の広報によると、「731」に首相が乗った理由は「単純に、731が隊長機だったからです」という。12日、松島基地には他の番号の機体もあった。
731というのは、練習機T-4のうち、131番目に製造されたという順を表すに過ぎない。それがたまたまブルーインパルスに配置され、隊長機として使用されていたため、首相が乗って写真撮影することになったというわけだ。
なお、写真を見ると機体には「Leader S.ABE」と特別の標示が書き込まれていて、首相の試乗に際してはかなり入念に準備をした様子。番号について、引っかかる人はいなかったのかと水を向けると、
「ないです。あれば変えてますよね…」
と苦笑いだった。