円相場は「適正水準」超えたのか 年内に1ドル=110円の観測強まる

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   円相場が心理的な防衛ラインとみられていた1ドル100円を約4年1か月ぶりに突破し、2013年5月15日時点では102円台まで円安が進んでいる。相場の「適正水準」は、無論あってなきがごとしだが、市場では「日本経済の実力からみて1ドル90~95円がリーズナブルな水準だ」との声も多い。

   この水準を超えると、原油や天然ガスなどエネルギーの輸入コストがかさみ、家計や内需型産業に打撃を与える心配があるからだ。円安に乗った株価上昇を歓迎するムードがなお強いとはいえ、単純に喜んでばかりもいられないのかもしれない。

米国景気が本格的に回復するとの見方が強まる

   これまでの「円安」が、「ドル高」に移行しつつあるのかもしれない。実際、ドル相場は円、ユーロ、英ポンド、スイスフラン、さらに新興国通貨に対して全面高という「ドル独歩高」の様相を見せ、5月13日にはリーマン・ショック直後の2008年10月以来4年7か月ぶりとなる1ドル102円台をつけた。

   1ドル100円を超える今の相場は、日銀が4月4日に導入した「量的・質的金融緩和」をはじめとする安倍政権の経済政策「アベノミクス」だけが要因ではない。黒田東彦総裁がデフレ脱却に向け、「異次元」とされる金融緩和を決めた時点の円相場は1ドル93円台で、その後は1ドル99円台まで円安が進んだものの、その度に米国景気への懸念から円が買い戻され、心理的な節目である1ドル100円を超えることはなかった。

   それがあっさり100円ラインを突破したのは、5月3日の米雇用統計が予想外にいい数字だったのに続き、9日発表の新規失業保険申請件数が改善し、米国景気が本格的に回復するとの見方が強まったのがきっかけだ。このため、ドルは円だけでなくユーロなど各国通貨に対して全面高となった。

   さらに、ロンドン郊外で10、11日開かれた先進7か国財務相・中央銀行総裁会議(G7)で「日銀の金融緩和や円安に対して批判的な意見はなかった」(麻生太郎財務相)ことから、市場では「事実上、1ドル100円超えの円安が受け入れられたと捉えられ、円安に弾みがつきやすくなった。円は一段安が見込まれる」(第一生命経済研究所)という。

リーマン・ショック前の円相場は1ドル96~112円

   果たして円安はどこまで進むのか。市場では「2008年のリーマン・ショック以降の超円高の反動と理解するなら、年内に1ドル110円近辺まで戻してもおかしくない」(第一生命経済研究所)との見方が強まっているようだ。リーマン・ショック前の2008年1~9月の円相場は1ドル96~112円だった。

   一方、日米両国の物価を比較した日米購買力平価でみると、1ドル80円台半ばが適正水準との試算もある。また、日本の輸出シェアと実質実効為替レートで試算すると、1ドル90円台前半となり、1ドル90円超の円安になると、名目国内総生産(GDP)に占める原油・天然ガスなどエネルギーの輸入コストの割合が2008年の水準を超え、内需産業や個人消費を圧迫するという。このため、「円相場は1ドル95円前後が適正で、100円超の円安常態化は国際的に容認されない」(大手シンクタンク)との見方もある。

新興国を巻き込んだ通貨安競争が始まる?

   今後の円相場の鍵を握るのは、日銀の金融緩和よりも米国経済の動向のようだ。「ドルはユーロや豪ドルに対しても堅調に推移しており、円安が進みそうなムードが漂っている。だが1ドル100円超の水準が定着するには、米国景気の持続的な回復を確認する必要がある」(みずほ証券投資情報部)という。

   米国景気のほかにも気になることはある。5月に入り、ECB(欧州中央銀行)に続き、豪州、インド、ベトナム、韓国など新興国が相次ぎ追加利下げに踏み切った。「4月から日本円の独歩安が進み、各国通貨には相対的に上昇圧力が働いている」(市場関係者)との懸念が強く、とりわけ韓国では円安の裏返しでウォン高が進み、輸出産業に危機感が広がっているという。

   先のG7は「通貨安競争の回避」で一致したが、市場では早くも新興国を巻き込んだ通貨安競争が始まったとの見方が出ている。

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