「異次元緩和」を決めた2013年4月3~4日の日銀の金融政策決定会合の議事要旨が連休の谷間の5月2日、公表された。
黒田東彦総裁の就任後、初の会合。9人中、6人のメンバーは白川方明前総裁時代の3月の会合と同じだが、異次元の政策転換に同意する変わり身の早さを印象づけた。ただ、同意はしながらも、金融緩和の副作用への心配も散見され、さすがに一枚岩にまではなれなかった様子も垣間見える。
9人中6人は前総裁時代から留任
日銀の金融政策決定会合は月に1、2回開かれ、その時々の経済情勢などを確認し、それを踏まえて「政策金利の上げ下げ」のような金融政策を決定する。景気が過熱しインフレ気味なら金利を上げ、逆なら金利を下げるといった具合だ。メンバー(委員)は総裁、副総裁2人、審議委員6人の計9人。今春に任期満了した総裁・副総裁計3人の後任は、安倍晋三首相の肝いりで黒田東彦総裁(アジア開発銀行前総裁、元財務官)と岩田規久男(学習院大教授前教授)、中曽宏(日銀生え抜き)の両副総裁が就任、その他の6人は前総裁時代から留任している。
公表された黒田日銀の初会合によると、9人は「これまでとは次元の違う金融緩和を行う必要がある」との認識を共有。多くの委員が「政策の枠組み自体を見直す必要がある」との見解を示した。
「現在は見直しの絶好の機会」
委員からは「実体経済や金融市場に株高などの前向きな動きが表れ始めた現在は見直しの絶好の機会」「従来は情報発信が必ずしも効果的でなかったことが政策効果を削いでいた」「必要な政策は全て決定したと市場に受け取られるよう、インパクトのある規模の政策とすることが重要」といった声が相次いだ。前総裁の政策を否定的にとらえる指摘が、新総裁のもとで遠慮なく出されたわけだ。
議論の結果として、金融政策を遂行するための金融市場の操作目標を、前総裁時代の「金利」から、日銀が世の中に直接供給する通貨の量を示す「マネタリーベース」に変更することを決定。具体的には委員の一人が「マーケットに対して最大限のインパクトを与える規模」として挙げた、「長期国債の保有残高を年間50兆円程度増やす」などの案を採用。上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(REIT)といったリスクある金融商品も買い増す「量的・質的金融緩和」を進めることになった。銀行が国債のような安全資産から企業融資などに運用先を変更することを促し、経済を活性化させる狙いだ。
異次元緩和の副作用を心配する声も上がる
ただ、委員からは異次元緩和の副作用を心配する声も上がる。そもそもある委員は「前年度比で物価が2%上昇する」ことを2年程度で達成するとの政策の根幹部分を「不確実性を踏まえるとリスクが高い」と述べた。
また、ある委員は①結果として生じる過度な金利低下は儲けが少ないので金融機関の貸出意欲をかえって減退させる、②国債利回りが低下しすぎて生保や年金の運用を圧迫する――などと指摘。別の委員は「日銀が政府の財政赤字の穴埋めをしていると勘ぐられる」「価格を形成する市場機能を損なう」などと指摘した。実際に国債市場は新政策決定後混乱し、価格が乱高下する場面もあった。委員は大胆な政策に同意しながらも半信半疑だった可能性をうかがわせる議事要旨と言えそうだ。