モンローと握手して夢見心地
サンペイ ふふふ。まだ続きがある。怒声飛び交うなか、ぼくがその場所をどくと、カメラマンたちが一斉に、必死にバシャバシャ撮っている。その間に、カメラ隊列を迂回するようにして空港の外に出た。
空港ビルの玄関前は、ファンで大混雑している。その後ろで、ぼくがカメラをぶら下げたまま立っていると、米軍のMP(ミリタリー・ポリス)がやって来た。大男のMPは、おれを能無しのカメラマンだとでも思ったのか、「レッツゴー」と言いながら、まるで砕氷船のように群集をかきわけて、空港正面に停車している黒いセダンの客席のまん前に、おれを押し出してくれたんだ。
そこに、モンローが乗り込んできた。カメラを向けたんだけど、車の窓がくもっていて撮れない。窓をコンコンと叩いて、「プリーズ オープン ジス ウインドー」のようなことを必死で言った。
すると、窓が開いた。目の前にマリリン・モンロー。群集が押し寄せる。MPたちが押し返す。おれも力いっぱい体を引いて、2、3枚撮った。目の前の大スターに「サンキュー」とお礼を言うと、モンローは「アンキュー」と、尻上がりの甘い声でぼくの目をジーッと見て答えた。そして窓から手を出してくれたのだ。おれは夢見心地で、その手を握った。小っちゃな手で、柔らかくて、むっちりしていた。
池ちゃん MPがサンペイさんを助けてくれたんだ。それにしても、ラッキーでしたね。うらやましい。
サンペイ 握手した右手は聖なる手となった(笑)。帰りの車のなかでも、ずっと上げたままにして、「当分、この手は洗わない」と誓ったんだ。この話は、宣伝部中に伝わった。
「その君の手を握手させてくれ。100円出す」
「アホか」
「500円出す」
「いやや」
なんて、大騒ぎした。お買い物に来ていただく計画はダメだったけど、ぼくが撮った写真を現像してもらうと、粉雪がはらはら降るなかで、傘をさしかけるディマジオ、花束を受け取る笑顔のマリリン・モンロー、そしてミス大丸を含めて、3人の表情は素晴らしかった。
モンローの話に入る前にも、大丸時代の愉快なエピソードが披露されています。電子書籍『フジ三太郎とサトウサンペイ』(https://www.j-cast.com/santaro/)第22巻は6月10日から発売です。