証券会社の並ぶ兜町に居を構え、証券マン「御用達」と言われてきたうなぎ屋がこのところ、大盛況だ。
日経平均株価が1万4000円台を回復して以降、4000円の「特上うな重」がいつもより多く出て、うなぎが足りなくなりそうな事態にもなる「嬉しい悲鳴」を上げている。
「(お客は)ほとんど領収書を持っていかない、自腹なんだね」
兜町に居を構える老舗うなぎ屋「松よし」は、「うなぎのぼり」のげんかつぎで、周辺に並ぶ証券会社の社員らをはじめとする「証券マン」に長く親しまれてきた。
話題の4000円の「特上」とはどんなものなのか、2013年5月9日13時ごろ、記者が東京メトロ茅場町駅のほど近く、飲食店の集まるエリアに位置する同店を訪れると、
「ごめんなさいね、うなぎがなくなっちゃって。サービスランチ(1000円)ならできるんですけど」
とさっそく盛況振りが明らかに。
店主の江本良雄さん(63)によると、ちょうどうなぎが足りなくなりそうになっていたのだという。
「13時に6人予約が入ってね。あわてて材料のうなぎを注文したの。その後のお客さんも大丈夫かなーと思っていたけど、ちょうど間に合った」
記者はこの狭間の時間に訪れてしまったらしい。
実際、店内は証券マンのランチには少し遅い時間だったが、6~7割の入りで活気に溢れていた。スーツにネクタイを決めた男性のグループがビジネス談義に花を咲かせつつ、食事をとる姿が目立つ。店主の指示もひっきりなしに飛ぶ中、従業員らは忙しく動き回っていた。
江本さんはこの日は予想以上の盛況だったと明かし、「今日はもう、さばいたうなぎが1枚もないんだよ。ご飯もなくなった」とにっこり。
株価が低迷していた2012年には出ない日もあった「特上」。これが9つも出た。2013年に入ってから「特上」はそれなりに出るようになったが、それでも今日はかなり多い部類に入る。この下の3500円の「上」も「いくつも出た」。
それも、「ほとんど領収書持っていかない、自腹なんだね」というから、訪れるビジネスマンの財布の紐が緩む様子がうかがえる。
5月からさらに盛況に「こっちがびっくりだよ」
この傾向は5月の連休が明けてから強まったようだ。
「みなさんゴールデンウィークでお金使っちゃうからヒマかなと思ってたんだけど、こっちがびっくりだよ」(江本さん)
記者のあとに入店したビジネスマン風の男性3人連れはビジネスマンに人気の2500円のメニューを注文していたが、店主によると、4月末まではこのメニューもほとんど出ず、「アベノミクスの恩恵をほとんど感じなかった」というのだ。
日経平均株価が4年11か月ぶりに1万4000円台に回復したことを受けて、8日には、ビジネスマンの「バイブル」とも言える日本経済新聞が同店を取り上げた。
「それでみなさん、高いうなぎが食べたくなったんじゃないかな」
日経効果も大きいというのだ。
また、決算発表で近隣の東京証券取引所を訪れる人の数が増えていることも、お客が増えた原因ではないかと分析している。
ただ、今後もこの「うなぎのぼり」が続いていくかについては、慎重な見方だ。
「全盛期に比べればまだまだですよ。うなぎのぼりの兆しが見えているのかいないのか、まだ半信半疑といったところ。大企業も、儲かったら株主のほうばかりを向くんじゃなくて、従業員のベースアップとかを考えて欲しい」