「政府は、子育てにお金がかかりすぎているから少子化になってることはわかってるんですかね?」――内閣府の「少子化危機突破タスクフォース」が5月下旬にも政府へ導入を提案する見込みの「生命(いのち)と女性の手帳」(仮称)に、インターネット上は非難轟々だ。
「手帳つくるカネがあったら育児支援にまわせや」
産経新聞などが2013年5月8日までに伝えたところによると、「女性手帳」は女性を対象に10代から身体のメカニズムや将来設計について啓発するもの。「(医学的に適齢とされる)30歳半ばまでの妊娠・出産を推奨し、結婚や出産を人生の中に組み込む重要性を指摘する。ただ、個人の選択もあるため、啓発レベルにとどめる」。少子化の要因の一つとされる晩婚・晩産化に歯止めをかける狙いがあるという。
具体的な中身は関係省庁は今夏にも検討会議をつくって詰め、2014年度中に自治体を通して配り始める方針だ。
これに、ツイッターなどのネットでは「残念な政府が考えた少子化対策」「ナンセンス」などと批判が殺到した。意見をまとめると、「日本の社会制度や通念では、出産も育児も結婚相手があってのことなのだから、女性だけに知らせても意味がない」「そもそも若いうちに結婚、出産をしないのは知識よりも金がないからなのに、税金を使って手帳を配って何になるのか」などと怒っている。
「妊娠異性がいないと成立しないんだから20歳以上の女性に配るんじゃなくて普通に学校教育で扱えばいい話じゃん…」
「これ、女性にだけ考えてもらって何か意味があるのかしら。男性は、何歳までに子どもをやしなって、かつ休職する配偶者をささえる覚悟を決めるべきか考えなくてもいいのか?」
「別にいまの少子化は『女性に(生殖・育児に関する)知識が足りない』から起きているわけじゃないだろってこと。むしろ育児にどれぐらいコストがかかるのか知識があるからこそ産みたい人も産めないんだろうよ。手帳つくるカネがあったら育児支援にまわせやと」
「こんな事に税金使うより、正規社員増やして労働条件整えたり、保育園増やしたり、医療や福祉を充実させる方がよっぽど少子化対策になるよ」
「晩婚家庭へ何故晩婚だったのかと丁寧に聞き取りしたり、早く結婚して早く出産した家庭の調査とかしたりする学術的な分析を全くやらず、いきなり精神論に飛んでることが、反知性的でキモい」
内閣府の調査でも経済基盤が要因なのは明らか
内閣府が2011年にとりまとめた「少子化に関する国際意識調査 報告書」からも、若年層が出産を「個人の選択として、したくない」というよりもむしろ「外的要因から諦めている」傾向は浮き彫りになっている。日本において「結婚したら自分自身の子どもは必ずもつべき」と考える人の割合は比較的高い。ところが、希望する子ども数と実際の子ども数とのかい離もまた大きいのだ。
関西学院大学の西村智教授(労働経済学)は報告書の中で、「かい離が配偶関係や就業形態によって大きく異なり、低出生率の背景に制度的・構造的な要因がある」と、低出生率は、個人の選択が集約された結果に留まらないことを指摘。「出産を諦める主な理由は保育や教育の費用がかかりすぎること、育児と仕事との両立が難しいことである」と解説した。
また、中京大学の松田茂樹教授(社会学)も調査結果の分析から、日本の合計特殊出生率が低い理由を「日本の若年層の結婚・同棲の開始が遅れていることにあるといえる」と割り出し、この要因を「経済基盤の弱さ」だと述べた。
「日本の非正規雇用者の男性や収入の低い男性は、アメリカ、フランス、スウェーデンよりも大幅に結婚・同棲経験率が低い。経済基盤の弱い者がカップル形成を特に送りにくいのがわが国である」
こうしたことを踏まえてか、産経新聞の報道には「内閣府は経済事情などを理由になかなか結婚に踏み切れない状況の改善にも取り組む方針で、新婚夫婦への大胆な財政支援に乗り出す」とも書かれているが、「これをきちんとやれば、手帳は必要ない」と「手帳」に対する疑問は残る。ネットでは「女性」=「子どもを産むもの」として一律に手帳を配布することは、セクシャルマイノリティや、生殖機能を失った人などのことを考えていないとの反発も出ている。