新潟県糸魚川市が、結婚相談サービス大手「ツヴァイ」と提携し、結婚を望む市民が入会する際の費用を市が全額負担する「婚活支援」を開始した。
今では多くの自治体が婚活を促進する事業を運営しているが、糸魚川市のような試みは全国的にも珍しい。
2007年からの婚活事業で18組が成婚
ツヴァイでは、結婚を考える男女会員に対して、要望に応じて相手を引き合わせる。「お見合い」のほかにもパーティーやイベントを開いて、出会いの機会を提供する。今回の提携で糸魚川市は、同市に1年以上住民登録をしている20歳以上の独身者がツヴァイに入会する際、その初期費用6万3840円を全額負担し、月額料金のみでサービスを受けられるようにした。
糸魚川市では2007年から、婚活を促進してきた。日帰り旅行や食事会といったイベントや結婚相談セミナーを開催する団体に事業費の一部を補助。男女の出会いのきっかけづくりをする「縁結びコーディネーター」を市民から募集し、成果に応じて謝礼を出している。市の企画財政課に電話取材すると、これまでの取り組みが奏功して18組が成婚に至ったと話した。ツヴァイとの提携で、軌道に乗りつつある婚活事業にさらに弾みをつけたいようだ。出会いの場を設定するだけでなく、結婚までの道のりをサポートするのは簡単ではなく、「専門家に任せた方がよい」という判断もあったという。
希望者は入会時、「1年以上居住」を証明する住民票を提出する。あとは、市税を滞納していなければ申請の資格が認められる。仮に入会後すぐ他地域に転居した場合でも、支給額を取り消したりはしない。「その人の未来を縛ることはできないので、あれこれ細かな条件はつけていません」と市の担当者は説明する。
実は、同様の取り組みを2年前に始めた先輩格の自治体がある。和歌山県印南町だ。2011年4月1日から、近畿にあるツヴァイの7店舗を利用する町民に、入会金の全額補助を実施している。糸魚川市の担当者に聞いたところ、今回の実施にあたっては印南町の事例も考慮したそうだ。
印南町産業課はJ-CASTニュースの取材に、2011年度は4組が支援金を利用してツヴァイのサービスに申し込んだが「結婚したかまでは分かりません」と答えた。一方、2012年の申請者はゼロ。「親からの問い合わせはありますが、本人の申請までにはなかなか結びつきません。もっと多くの人が申し込んでくれるとよいのですが」と話した。
婚活事業やめた自治体「効果に限界があるのでは」
自治体による婚活支援は、今ではかなり一般的になってきた。だが、すべて順調に進んでいるわけではないようだ。
内閣府が2011年3月に発表した「結婚・家族形成に関する調査」には、自治体の結婚支援の取り組みに関する調査結果が盛り込まれている。回答した市区町村1698団体のうち、結婚支援事業を実施しているのは552団体に上る一方、事業を取りやめたのも283団体に達した。その理由として「効果に限界があるのではないかと考えている」が最も多く、127団体となった。これに「予算確保が困難」「事業開始当初と比べてニーズが減少」が続く。
イベントに参加しても、単発で終わってしまうケースもあるようだ。2013年3月6日付の読売新聞電子版では、自治体による「男女の出会いイベント」で、成立したカップルがあった一方、「1日だけでは難しい」「今後につながるというより、その場だけの出会いと感じる」との声が聞かれたと紹介している。
国民生活センターは「ウェブ版国民生活」2013年2月号で、自治体の婚活事業を特集した。この中で広島国際大学心理科学部講師の大瀧友織氏は、兵庫県が実施した男女の出会いを支援する2つのプログラムを例に挙げた。ほぼ同じ内容ながら成立したカップルの数に違いが出た理由として、一方のプログラムが最初の段階で「結婚」をクローズアップし過ぎているとの意見を紹介。最初から「結婚」を前面に出し過ぎると逆効果になる可能性があると指摘した。自治体の婚活支援では、逆に結婚そのものを押し出すのではなく、「自然な出会い」と認識されるような場の方が望ましいというのだ。
今回の糸魚川市のケースは、自治体が主導的に結婚を促すというよりは、自らは「黒子」となって肝心の婚活の中身は丸ごとプロの事業者に委託した。新たな試みは、結婚を真剣に考える独身男女の背中を押すだろうか。