東日本大震災からの復興策で関心を集める全国初の「水産業復興特区」が動き出す。復興庁が2013年4月23日、宮城県の申請を認め、同県石巻市で、漁協に優先的に与えられてきた漁業権を開放することを決めた。民間からの投資を呼び込み、震災からの復興につなげるねらいで、県は漁業権の免許を更新する9月に実現させる方針だ。しかし、漁協は反発しており、議論は長引きそうだ。
外食チェーンなどに直接下ろすことが可能に
特区は「地元漁業者7人以上で構成される法人」なども漁協と同等に漁業権を得られる仕組みで、村井嘉浩宮城県知事が提唱、復興特区法に盛り込まれた。宮城県の申請に関し、復興庁は①経済が停滞し、地元の漁業者のみでは養殖の再開が困難②地元漁民の生業の維持など活性化に資する経済的、社会的効果が確実に存在③水面の総合的な利用に支障を及ばさない――という特区の認定要件に合致すると判断した。
特区の対象は、宮城県石巻市・桃浦(もものうら)漁港。この地区のカキ養殖業者15人と仙台市の水産卸大手「仙台水産」が出資する有限責任会社 (LLC)「桃浦かき生産者合同会社」に漁業権を付与するもので、15人は、「漁民」から、LCCの「会社員」になる。
これまで桃浦のカキは地元の漁協が買い取り、県内の他の産地と一緒くたに混ぜられて市場に出回っていた。独自の漁業権を持ち、漁協のしがらみから離れると、仙台水産の販売ルートを使い、大手スーパーや外食チェーンに直接卸すことが可能になる。仙台水産の施設で冷凍し、カキが品薄になる夏場に高値で売るといった"工夫"も自由にできるようになる。震災前に計1億9400万円だった15人の年間生産額を2016年度に3億円に伸ばし、約40人の雇用創出を目指す。
全国紙は歓迎するが地元紙は慎重
特区に反発しているのが漁協だ。全国漁業協同組合連合会は「全国に導入されないよう申し入れる」とのコメントを出し、全国への波及阻止に躍起だ。
漁協は組合員から魚介類を引き取り、仲買人に売る。組合員が払う販売手数料が漁協の収益の多くを占めるため、漁業権を失うのは死活問題。これまで、法が定める優先順位に基づき漁業権を事実上「独占」することで組合員を管理下に置き、生産調整や漁場管理を行ってきたからで、今回の特区について、具体的に①養殖いかだ数の上限などが決められなくなり、秩序を維持できない②密殖防止などのための漁場の一元管理ができない――などとして、「浜を分断・混乱させ復興の妨げになる」と批判している。
行政でも、特区推進の宮城県に対し、岩手県は漁協主体の復興を模索。震災で一段と深刻化した後継者不足に苦しむ中、収入増加策として、漁師と養殖業者がタッグを組んで従来は食用にならなかったツブ貝のむき身などの販売(大船渡)、漁協直営のワカメ養殖(大槌町)などの取り組みが始まっており、収入の安定化による担い手確保に努めている。
ただ、どちらの県の取り組みがいいのか、単純に答えは出ない。新聞の社説の論調も、全国紙は「桃浦の挑戦を評価する」(4月20日「毎日」)、「水産特区 改革への起爆剤に」(4月25日「朝日」)と特区に好意的だが、地元「河北新報」は「合意得られぬ『発車』は残念」(4月11日)と、慎重な対応を求めている。
ジリ貧にどう歯止めをかけ、地域経済を元気にするか。農業再生とも共通する重い課題を背負って、水産特区の挑戦が始まる。