新潟県村上市の小さな山「日本国(にほんこく)」の山開きイベントで発行を予定していた登頂証明書の名称「日本国征服証明書」が批判を浴び、変更を余儀なくされた。周辺国との領土問題がある今、「不謹慎だ」と苦情が寄せられたためだ。
地元では「征服」という表現が昔から使われており、突然の批判にとまどいを隠せない様子だ。
「不謹慎だ」とクレームを受ける
村上市小俣から山形県鶴岡市の両県にまたがる日本国は標高555メートルの小さな山だ。毎年5月5日には市民らによって山開きイベントが開催され、地元の踊りや太鼓の演技が披露されるほか餅つき大会や特産品の出店などが行われている。例年500人以上が山に登り、イベントに参加する人はそれ以上だという。
問題になったのはイベントの一環として計画された、山頂に登った人に渡される登頂証明書「日本国征服証明書」だ。証明書は地元グループ「日本国を愛する会」が発行するもので、地元では古くから登頂を「征服」と呼ぶことから名称がつけられた。
しかし証明書に「征服」の文字が入るというニュースが出ると、それを見たネットで「不謹慎だ」と怒りを示す人々が現れ、ネット掲示板には批判する書き込みが相次いだ。
イベントを支援する新潟県の地域振興局には、「領土問題で敏感な時期にいかがなものか」、「中国や韓国の人が押し寄せてくるぞ」とクレームが寄せられた。メール50件、電話10本があったと担当者は話す。 寄せられたクレームやネットの書き込みは、尖閣諸島や竹島と領土問題がある中で、「日本国を征服した」という証明書を出すと、中国人や韓国人が押し寄せるというものだ。「売国」という書き込みもあった。
地域振興局の担当者らはネットでの激しい書き込みに不安を感じ、日本国を愛する会のメンバーらと協議。「無用の混乱を避けたい」と考え、日本国を愛する会は「表現が不適切だった」と「日本国登頂証明書」へ名称の変更を決めた。
30年以上前から「征服」と表現していたが…
わずか70軒ほどの世帯しかなく、過疎化の進む小俣集落が続けてきたイベントは32回目を迎えて、想像をしていなかった注目を浴びることとなった。
県の担当者は突然の事態にとまどう様子だ。山頂には「日本国征服」と書かれた横断幕が30年ほど前から掛けられているが、昨年まで苦情やクレームの連絡は一切なかったという。
批判には、「日本国」を勝手に名乗るな、というものもあった。しかし、名称の由来は諸説あるが、一説には江戸時代にこの山で捕らえられた鷹を見た当時の将軍が喜び、「この山を日本国と名づけよ」と言ったという。日本国の名称は明治時代に国土地理院から認められている由緒正しいものだ。
「地元の人にとって『日本国』と言えば山のこと。地元には違和感はなくとも、ほかの地域の人には違和感があったのかもしれませんね」
と県の担当者は語る。
5日に行われた山開きイベントの実行委員会は、「急に話題になってビックリした」と話す。イベントが始まった1981年から「征服」の表現を使っており、「30年以上前からのことなのに。なんで今さら…」と困惑する。
イベントは、ネットで懸念されたような外国からの参加者が押し寄せることもなく、大きなトラブルもなく終わった。しかし、ネットでの騒ぎを気にしていた参加者もいたという。
「征服」表現の変更が決まったあと、ネットでは「当然だ」とする声があがった一方で、「こういうのもシャレで済まされない時代なんだなぁ」、「このぐらいのギャグに目くじら立てる意味が分からん」、「言葉狩り的なものを感じた」という意見もあった。