法制審議会が検討している民法の大改正に絡んで、中小企業が融資を受ける際に求められてきた個人保証を制限する改正案が注目されている。経営者が全財産を失って再起不能に陥る問題のほか、第三者保証した経営破綻に責任のない親戚や知人までが多額の債務の肩代わりを迫られて自己破産に追い込まれる例が後を絶たないことが背景にある。ただ、保証人を制限すると融資を受けにくくなる恐れも指摘される。長年の慣習を断ち切って新たな仕組みをいかに構築していくかが問われている。
法制審部会に反対・慎重意見も
法制審の民法(債権関係)部会は2013年2月26日、「民法(債権関係)の改正に関する中間試案」を決定、6月3日まで意見募集(パブリックコメント)をしている。法制審のまとめた要綱に基づいて法案を作成するのに少なくとも2年は必要とみられ、法改正は2015年以降 になる見通しだ。
第三者の個人保証については、10年余り前の商工ローンの違法取り立てをきっかけに、高額の借金の肩代わりすることになった保証人が生活に必要な財産まで失う「保証被害」が社会問題化。返済に行き詰まった経営者が「保証人に迷惑をかけられない」と無理な借金を重ねるケースが多く、第三者保証人も一緒に自殺するといった悲惨な事例もあった。
試案は、こうした悲劇を生まないよう第三者の個人保証を禁じる案を盛り込む一方、経営者自身が債務会社の保証人となる「経営者保証」は、引き続き禁止しないとしている。第三者の保証人は、経営状態や資産状況を詳しく知らないまま、突然、高額の肩代わりを強いられるリスクがあるが、経営者は事情を十分知っており、自己責任は当然、という考えだ。
ただ法制審部会の中にも、反対・慎重意見は根強い。部会の議論で「担保不動産を持たない経営者は、第三者保証に頼らざるを得ず、禁止になれば融資が受けられなくなる」「リスクを承知で保証人になって債務者を助けたい思う第三者もいる」などの異論が出た。「経営者」についても、経営者本人の家族を含めるのか、あるいは事実上のオーナーが別にいるような場合の扱いをどうするかなど、意見の相違が残っている。
個人事業者や零細企業が不安
また、経営者本人の保証について、中小企業庁と金融庁が、全財産が没収されることを防ぐ「指針」策定作業中で、4月下旬の検討会議で報告書をまとめ、銀行業界などと具体的な協議に入るところだ。今のところ、経営者の自宅については「贅沢でないものなら没収しない」とするのが有力で、手元に残す現金も、破産法で自己破産者に認められる99万円(標準世帯の生活費3カ月分)より多くする方向で、400万円程度とする案などが出ている。
融資の保証については、2004年に「包括根保証」(極度額や期限の定めがない青天井の保証)が禁止され、保証額の枠を決め、一定期間内(最長5年)の借入れに限定されている。さらに、金融庁は2011年7月、大手金融機関への監督指針で、「第三者保証」を原則禁止しており、第三者保証を取らない融資が始まっている。しっかりした事業計画を求め、それを評価して貸すということだ。事業の将来性、経営者の人物を見極める「目利き」の能力が求められるが、これが本来のバンカーの仕事であるのは間違いない。
そこで問題になるのは、成長性に乏しくカツカツの経営で担保も用意できず、ノンバンクや事業者金融を利用せざるを得ないような個人事業者や零細企業だ。例えば手形の不渡りを回避するため、高利でも借りざるを得ない場面が往々にしてあり、「今のように第三者保証人を立てて銀行から借りることができなくなれば、危ないカネに手を出さざるを得なくなる」(中小企業関係者)との不安は強い。
自治体がつなぎ資金を貸し出す制度などもあるが、第三者保証を廃止するなら、自治体の補助や融資、信用保証協会の保証を含め、現場の実態に合わせた仕組みが必要だろう。