胸ポケットのないシャツが「世界標準」――こんな記事を朝日新聞が掲載して話題になっている。
日本のビジネスマンの間では、胸ポケットつきのシャツが一般的で、そこにペンやネームプレートをはさんで使用する姿も多く見られる。デパートなどに並んでいるワイシャツもほとんどが胸ポケットつきだ。
こうした日本の「常識」を覆すような話に、「本当に世界標準なのか」と驚きまじりの疑問が投げかけられているのだ。
世界レベルの企業なら胸ポケットを「プロではない」と見下す人も
イギリスのトーマスピンクやアメリカのラルフローレンといったブランドの現地サイト上でカタログを見ると、日本のワイシャツにあたる「ドレスシャツ」の項目に、胸ポケットつきのものはみあたらない。また、英国紳士の鑑たるジェームズ・ボンドが劇中で着用するトム・フォードのシャツにも胸ポケットはない。
やはり、胸ポケットがついていないのが「世界標準」なのか――。実はこの問題、アメリカでも意見の分かれるところらしい。インターネット上では2004年ごろから「胸ポケットなしのシャツはビジネスの場でふさわしいか?」「胸ポケットつきのシャツと胸ポケットなしのシャツ、どっちがいいか?」といった質問がファッションサイトの掲示板や、Q&Aサイトに数百件以上、英語で書き込まれていた。
共通しているのは、胸ポケットなしのほうが「フォーマルに見える」ということだ。確かに日本でも、タキシードの下に着るシャツには胸ポケットがついていないのが常識とされる。また、胸ポケットにごちゃごちゃと物が入らない分、型が崩れずさっぱりとした印象を与えるという説もある。
一般的かどうかは、職種によるらしい。オーストラリアのシャツメーカー・JOE BUTTONの公式サイトは「ウォールストリートタイプの企業に好まれている胸ポケットのないシャツは、よりフォーマルだと考えられています」と金融系で通用しており、よりスマートに見えるとした。
インターネット上でシャツの注文が出来る米サイト「SHIRTSMYWAY」でも、ビジネスの場で胸ポケットがどう受け止められるかについてこう説明する。
「胸ポケットを選ぶべきかそうでないかは、あなたがどんな職業についていて、どんな服装が職場でふさわしいとされているかに大きく依存します。スーツやネクタイの着用が求められる世界レベルの企業なら、胸ポケットを『プロではない』と見下す人が多くいます」
ここ十数年で胸ポケットなしのシャツが流行?
ただ、ビジネスシーンでの「胸ポケットがついていない」シャツは昔から一般的だったわけではなく、最近の流行だとする説もある。アメリカのファッション誌・GQの編集者が執筆するブログでは、13年1月に「最近ますます胸ポケットのついていないドレスシャツが見られるようになった。ブルックス・ブラザーズが数十年前に胸ポケットをつけるのをやめ、(…)Charvet、Turnbull&Asser、Luciano Barberaのようなもっと高級なヨーロッパのシャツメイカーもあてはまる」と書かれていた。過去10数年で、胸ポケット付きのシャツの売り上げが65%下がったという話も、前出のSHIRTSMYAWAYは紹介している。
しかし、シャツの胸ポケットにスマホやらペンやらを挿しているビジネスマンを見慣れた日本人として気になるのは、胸ポケットなしで不便しないのかということだ。東武百貨店紳士服売り場の担当者は、その国の文化や合わせるスーツによってもシャツの選択は異なると前置きし、
「欧米のビジネスシーンでは、スーツのジャケットを脱ぐことはほとんどないので、シャツはいわば『下着』のようなもの。下着にポケットがついている必要はないですよね」
となくてもかまわない理由を説明していた。