経団連が訪中団の派遣を取りやめたことをめぐり、経済界に憶測が広がっている。尖閣問題などをめぐる日中両政府間の膠着が続く中、派遣を強行して中国指導者との会談が実現しなければ、「経団連執行部に対する責任論が火を噴きかねない」(経団連副会長の一人)事情がある。そうなれば、経済界にくすぶる米倉会長の「途中降板説」が勢いづくのは必至だけに、批判の芽を摘む安全策を優先したというわけだ。
これまでは「政冷経熱」の立場を強調してきた
訪中団の派遣を予定していたのは2013年5月8~11日の4日間。米倉会長のほか、渡文明審議員会議長(JXホールディングス相談役)らが同行することになっていた。
経団連の関係者は「4月中旬に中国側の受け入れ団体である中日友好協会から、李克強首相などの指導者との面会は難しいと連絡があったのです」と訪中取りやめの理由を説明する。直前に、元幹部自衛官らが率いる一部愛国団体などが沖縄本島から船で尖閣諸島に上陸する動きを見せた。中国側はそれを容認する日本への抗議として、5月下旬の日中韓3か国首脳会談への参加を見送るなど、政治的なあつれきが強まっていることが背景にある。
ただ、米倉会長は従来、政治面での交流がストップしても、経済界での交流は途絶えさせない「政冷経熱」の立場を強調してきた。その点について、米倉会長は「成果がもっと得られる時期に行った方がいいと判断した」と説明するが、歯切れの悪さは否めない。
行ったものの「空振り」ではすまされない
米倉会長は3月にも日中経済協会(会長・張冨士夫トヨタ自動車会長)訪中団の一員として北京を訪れ、李源潮国家副主席らと会談した。今回の訪中で成果を出すとすれば、それより高位の指導者、つまり習近平国家主席か李克強首相との会談を実現させるしかない。しかし、複数の閣僚による靖国神社参拝などで政府間のつばぜり合いはさらに激しくなっており、「行ってみて空振りだったというわけにはいかない」(経団連幹部)との判断があったようだ。
気になるのは、日本商工会議所が、今月26日からの訪中を予定通り実施することだ。メンバーは岡村正会頭(東芝相談役)のほか、次期会頭に内定している三村明夫・新日鉄住金相談役や小林健・特別顧問(三菱商事社長)ら豪華メンバー。
その時までに日中関係が好転している見込みは薄く、今のところ中国最高指導者との会談が実現する見通しは立っているわけではない。だが、仮に実現すれば経団連としては民間経済交流の主導権を"格下"の日商に奪われた形になりかねない。三村氏は中国との関係が深い新日鉄の社長経験者として中国側と独自のパイプがあるとされ、経団連関係者は日商の訪中の行方に気が気ではなさそうだ。