「この話はもう終わったんですよ」
「だから、これからはちゃんとやりますよと言ってるんです」
猪瀬直樹・東京都知事はニューヨーク・タイムズ紙上での「不適切発言」をめぐり、謝罪を口にしたはずだったのだが、2013年5月2日の定例会見では記者の追及にすっかりぶんむくれ。本人はなおも五輪招致に意欲を燃やすが、簡単にはこの騒動収まりそうにない。
安倍首相、親日トルコもフォローしたのに…
問題の発言が4月26日にニューヨーク・タイムズに掲載されて以来、猪瀬都知事の対応は後手に後手を踏んでいる。問題が表面化した29日にはツイッターとフェイスブックで、
「インタビューの文脈と異なる記事が出たことは非常に残念だ」
「真意が正しく伝わっていない」
として、NYタイムズ側に責任を転嫁したものの、同紙はただちに「記事には完全な自信がある」と反論、これを受けて30日にようやく発言を訂正、謝罪した。
五輪招致を目前にしてのこの「失言」に、安倍晋三首相は1日、訪問中のサウジアラビアで「日本はイスラムの寛容の精神に多くを教わるだろう」と急遽フォローに回った。名指し批判されたトルコも謝罪の受け入れを表明するなど、「ライバル国」までもが気を遣う事態に。
ところが猪瀬都知事はなおも収まらず、発言はインタビューがほぼ終わってからの雑談だった、などと弁解を続けた。さらに5月1日のツイッターでは、「今回の件で誰が味方か敵か、よくわかったのは収穫でした」と挑戦的につぶやき、さらに波紋を広げることとなった。
そして究めつけとなったのが、2日の定例会見だ。いつも以上のしかめ面を浮かべる猪瀬都知事は、IOCが今回の件を「処分せず」と回答したことを盾に、この問題を「終わった話」と繰り返した。執拗にこの件を尋ね続ける記者たちには、
「さっきそれは話した! これから気をつけますから」
「だいたいこれぐらいにして! 同じ話になるぜ」
といらだちを隠さない。仕舞いには記者に向かい、
「あなたはオリンピック招致したいと思ってるんですか? (賛成と聞いて)はい、ありがとう。割とオリンピック招致反対の人もいろんなことを仰いますので」
と、自身を批判するのは招致反対派といわんばかりの口ぶりを見せた。
トルコと「世界史の話がしたい」?
そんな中、「トルコ側に直接会って謝罪・釈明を行う意思はあるか?」と尋ねられた都知事は、少し意外な答えを返した。
「考えています。それだけじゃなくて……大げさに言うと、世界史とかそういうことを語り合いたいなという風に思っています」
突然の「世界史」発言に、一瞬会場は虚をつかれたムードに。どういう話をしたいのか尋ねると、
「日本は19世紀に『近代化』をスタートしましたが、トルコも日本をある意味で参考にして近代化を遂げました。中心になって頑張ったのがあの有名なムスタファ・ケマル――『シャー』と言われた人ですね。ヨーロッパ以外の文明がどう『近代』を受け入れたか、あるいは独自に近代化するというのはどういうことか、そして近代の向こうにどういう世界が待っているのか、それこそが今回東京が五輪にエントリーしているテーマのひとつなのですが……」
といった調子で、五輪から都営バス24時間営業化に及ぶ演説が繰り広げられた。今回のような低次元の話ではなく、もっと高尚な「近代」についての論を語り合いたい、とのことらしい。
なお重箱の隅をつつくようで知事には恐縮だが、ムスタファ・ケマルの称号は「シャー」ではなく「パシャ」ではないですか。