九州国立博物館(福岡県太宰府市)で2014年に開催を予定していた「百済展」が、延期されることになった。長崎県対馬の寺から韓国人窃盗団が2体の仏像を盗み出し、今も返還されていないことが影響したという。
百済展は、九博が他のふたつの博物館と共催し、韓国でも展示する計画だった。そのためか、文化財出品を依頼された所蔵者から「韓国に持っていったら、対馬の仏像のように戻ってこなくなるのではないか」と心配の声が上がった。
韓国の裁判所がまた「日本に返すな」と判断する懸念
百済展延期のニュースは主要紙が報じたが、九博はこれまで開催そのものを正式に発表していない。九博の担当者はJ-CASTニュースの電話取材に「関係者間で内々に話を進めていた企画」と説明する。
九博のある太宰府市と、隣接する大野城市と筑紫野市には、かつて百済から来た人々によって築かれた水城(みずき)、大野城、基肄(きい)城という史跡がある。これらが2014、15年に相次いで築城1350年を迎えることから、記念事業として百済展が持ち上がった。
展示会は九博と奈良国立博物館(奈良市)、さらに韓国の博物館の3か所で、持ち回りで開催する予定だったという。展示物の多くは民間の博物館や寺など他所から借用しなければならず、九博側が出品の内諾を得ようと動いていた段階で対馬の仏像盗難事件が発生した。
韓国の裁判所は、韓国内に持ち込まれた盗品の仏像について「かつて正当なルートで日本に渡ったのかが証明されるまで、日本に返却してはならない」との仮処分決定を出した。このため文化財の所蔵者から「『貸し出して大丈夫なのか』と問われました」と、九博の担当者は明かす。展示会が韓国の博物館でも開催予定だったため、文化財が韓国に渡ることを心配したのだ。
読売新聞と産経新聞(いずれも電子版)は5月2日、出展交渉を受けた所蔵者から「韓国に持っていったら返してもらえなくなるのではないか」との不安が寄せられたと報じた。西日本新聞も当初同じように伝えていたが、その後電子版で「韓国での展示を懸念する声が出ていた」とややトーンを落とした。九博に確認すると、「実際に『韓国から戻ってこなくなるのでは』との問い合わせはありました」と認め、こう続けた。
「(心配は)当然だと思います。国宝級の文化財を韓国に持っていった後に、また裁判所が『日本に戻してはならない』という仮処分を出さないとも限りません。当館としては、それ以上は要請できませんでした」
「韓国の博物館側には、内々に『開催困難』を連絡」
海外で展示会を開く場合、手続きに1年以上を要するという。百済展は2014年春の開催を目指していたが、現段階で出品のめどが立たない以上は予定通りの進行が難しく「時間切れ」と判断した。「韓国の博物館側には、内々に『開催困難』を連絡しています」と、担当者はやや困った様子だった。
ただ「築城1350年」の記念事業として、九博単独で百済関連の展示会を2014年に企画しているという。今回見送った百済展も「延期」の扱いで、時期を見て開催したいとしている。
だが、延期の原因となった対馬の仏像盗難問題は、今も決着していない。窃盗犯の裁判は韓国で始まっているが、5月1日付の産経新聞電子版は、主犯格の兄弟のうち弟が、兄から「『日本には植民地支配中に韓国から略奪した文化財が多くあり、盗んで売れば金になる』と持ちかけられた」と証言したと報じた。5月2日付朝日新聞電子版は、兄弟ら実行犯が2体の仏像を盗んだ後、別の韓国人に「借金のかた」として取り上げられたとの法廷証言を伝えた。逮捕された直後は「愛国心」から犯行に及んだような口ぶりだった窃盗団だが、どうやら最初から「金目当て」だったようだ。