「天皇陛下万歳!」――2013年4月28日、「主権回復・国際社会復帰を記念する式典」で、安倍晋三首相始め出席者が「万歳三唱」を行った問題が、波紋を広げている。
翌日以降の新聞・テレビが相次いで批判的な立場でこの件を取り上げたほか、与党・公明党からも苦言が。もちろん韓国からは強い反発が巻き起こる。菅義偉官房長官が30日の会見で「自然発生的に発せられた」と釈明を余儀なくされるなど、ほとんど「不祥事」並みの扱いだ。
「ハイル・ヒトラー」と同じ?
「想定外の万歳三唱 戸惑う出席者も」(朝ズバッ!(TBS系))
「記念式典であるハプニングが」(ワイドスクランブル(テレビ朝日系))
29日の一部ワイドショーは、こうしたテロップで万歳三唱の場面を映し出す。カメラは続いて沖縄県関係者の声、あるいはコメンテーターによる天皇の政治利用などを危惧する発言を紹介し、「万歳」を問題視する姿勢を打ち出した。
新聞では、会場から万歳が発生したことを淡々と紹介した朝日、問題には触れず万歳写真のみ大きく一面に配した産経、一切触れなかった読売と扱いが分かれた。そんな中で毎日は、
「突然の『万歳』に苦慮」
の見出しで、政府関係者も予期していなかった「ハプニング」として、やや批判的な切り口で大きく報じた。このほか式典自体に反対する沖縄2紙も、「思慮を欠いた振る舞い」(琉球新報)「県民に強い違和感を残した」(沖縄タイムス)と、そろって強硬に反発した。
やはりというべきか、韓国紙からの攻撃も相次ぐ。大手紙・朝鮮日報が「『天皇陛下万歳』安倍首相に批判続出」との見出しで報じたのを始め、ソウル新聞は「秩序を重視する日本人が、天皇・首相臨席の場で勝手に万歳を言い出すだろうか」と疑問を呈し、安倍首相らによる「自作自演」説を打ち出す。韓国日報に至っては、「『天皇陛下万歳』は『ハイル・ヒトラー』と同じ意味」と主張する論説を掲載した。
政府内部からも、与党・公明党の山口那津男代表が式典後に「(主権回復の日の)意義を十分に踏まえた行動だったか問われる」と苦言を述べるなど、風当たりが強まる。
政府動画からなぜか「天皇陛下…」音声消える
こうした中で一部から注目されたのは、政府が配信した式典の公式動画で、万歳の音声が一部無音となっていることだ。
内閣府が公開する「政府インターネットテレビ」では、式典の模様が全編ノーカットで公開されている。ところが、問題の「万歳三唱」の部分では、会場からの「天皇陛下、万歳!」の発声、そして続く1回目の「万歳」の音声が途絶え、2回目以降の万歳しか聞こえない。
内閣府はJ-CASTニュースの取材に、「参加者が立ち上がったため会場がざわついたので、一時壇上のマイクを切っていただけ。意図して音声を消したものではなく、誤解を与えるような内容になったことは残念」と編集を明確に否定したものの、前述の沖縄タイムズはこの件から、政府も万歳問題を「なかったこと」にしたいのではないか、と勘ぐる。
なかったことにしたいのか「既成事実」化したいのかはとにかく、これまでのところ菅官房長官の会見を別にすれば政府関係者や議員からこの問題への言及、あるいは反論はほとんど聞こえない。ちなみに式典のあとすぐにモスクワに出発、さらに中東歴訪中の安倍首相は、フェイスブックなどでも今のところこの問題に触れていない。