「(編注:TOEFLを)私は受けたことはないです。受けても10点ぐらいでしょうか」
自民党教育再生実行本部長の遠藤利明衆議院議員からこんな発言が飛び出した。大学受験へのTOEFL(トーフル)導入の旗振り役を務めていて、参院選の公約にも盛り込むと息巻いている人物の言うことだけに、衝撃的だ。
2013年5月1日付の朝日新聞朝刊は「争論」と題し、TOEFL導入で「使える英語は身に付くか、グローバル人材は育つか、高校で受け入れられるのか」について、提案者と反対論者の意見を掲載した。その中でのことだ。
「でも、政治家とは英語力がないと務まらないのかどうか」
TOEFLはそもそも海外大留学のための試験で、要求する語彙に日常会話では使わないような学術的なものが多く、日本人にとっては難易度が非常に高い。自民党教育再生実行委員会が13年4月、大学受験へのTOEFL(トーフル)を導入するということを柱とした「提言」をまとめたことが報じられた直後から、ツイッター上では一般的な学校教育の到達度を測るには適さないという見方が海外大への留学経験のある人を中心に広がった。「これ言ってる人、TOEFL受けたことないんだろうな」と呆れ交じりの書き込みも相次いでいた。今回の遠藤氏の発言で、これが裏付けられてしまった格好だ。
自身が導入の旗振り役でありながら、試しに受けてもいない、その上「受けても10点くらい」と開き直る。提言で「高校卒業レベル」に設定した「45点」をはるかに下回る点数だ(TOEFLは形式が複数あるが、現在主流のibTでは120点満点)。ツイッター上では「自分で言ってて矛盾感じないのかな?」「なんだこの無責任議員」と首をかしげる人が複数いる。
その上、遠藤議員の発言にはこのほかにもおかしなところがあると指摘が相次いでいる。
たとえば、遠藤議員は自身が国際会議に出席した際、パーティーでわいわいやっている場での会話に英語で参加できなかった経験を引き合いに出し、中高6年間の英語教育は役に立たないのでTOEFLを導入し、「話せるようになる」よう変える必要があると訴えた。国際会議での会話は「次の会合に生きてくる」とも説明しているので、英語力の無さで政治家としての活動に支障をきたしたとみずから告白したようにも受け取れる。
ところが、「グローバル時代の政治家として国会議員もTOEFLを立候補要件にしてはどうか」との問いには、「でも、政治家とは英語力がないと務まらないのかどうか」と居直ったのだ。
ちなみに、遠藤議員は英会話を習ったことがあるが、うまくならなかったという。
「争論ではなく暴論」
また、学校教育を変える方法がなぜTOEFLなのかは、「英語の教育の専門家にも聞きましたが、みなさん、さまざまな説をおっしゃるけど、どれが正しいのかわからない。一番簡潔なのがTOEFL導入です」と、あいまいだ。教育現場の混乱が予想されることについては、「私たちは先生のためではなく、生徒のために改革するんです」といいつつ、「企業のみなさんは賛成してくれていますよ」となぜか生徒ではなく企業の賛同を根拠に上げた。
こうした一連の発言に、ツイッターではふたたび、
「学校教育の6年で英語できるようになると思ってるんだな,この人」
「この議員、あまりにもアホすぎるw 自分だってろくに英語を使えないのに、子供達に語学力を強要する一方で、国会議員の外交には英語は不要なんだとさw」
「これぞ争論ではなく暴論」
と批判が相次いで書き込まれ、「『受けても10点ぐらい』という人が、『どれが正しいのかわからない』まま一番『簡潔』、つまり自分の頭で分かる程度の政策を実施しようとしているわけですか。。。」「学校教育ではとにかく基礎を教えればいいんじゃない?あとは自民党が好きな『自助努力』『自己責任』ってことで」との皮肉も出た。
紙面では反対論者の和歌山大学の江利川春雄教授(教育学)が、学校教育だけで英語が話せるようになるというのは幻想だと訴えた。東大入試や英検1級を超える場合もあるTOEFLの要求水準に、学校教育だけでもっていくのは困難で「『体育の授業の目標を国体出場レベルにしよう』といっているようなもの」という。そればかりか、英語嫌いを増やす危険性もある。むしろ、英語が将来必要になったときに自分で学んで伸びられるよう、基本的な文法や音声、語彙などの土台づくりに目的を置くべきとの見方を示した。その上で、遠藤議員にこう諭している。
「私も英語教師です。英語ができる日本人が増えたらいいなと思います。遠藤さんも自助努力で必死にやれば、国際会議やレセプションで話せるようになります。どうかお願いですから、学校教育に責任を押し付けないでください」