新型インフルエンザの感染防止を目的とする特別措置法が2013年4月13日施行、同法に基づく行動計画案もまとまった。中国でH7N9型鳥インフルエンザウイルスが人に感染しているため前倒しして施行した。併せて、H7N9型を、5月6日に感染症法上の「指定感染症」にする。同ウイルスの国内への感染に備え、"臨戦態勢"が整うことになる。ただ、一度感染が広がれば、対応は容易でなく、課題は多い。
自治体も地域の特性に合わせて独自計画
特措法では感染拡大を防ぐため、政府が区域を限って「緊急事態」を宣言すると、そこの都道府県知事が、多数の人が集まるようなことで感染が一気に広がるのを防ぐなどの措置を取る。そのため、政府が同法基づく行動計画を策定するとともに、自治体も地域の特性に合わせた独自の計画を作ることになる。
その第1のポイントは、知事権限により学校、幼稚園を休校にしたり、劇場や博物館、百貨店などの営業制限や一時休業を指示できること。従わない場合は施設名公表という罰則付きだ。
第2がワクチンの優先接種。海外で感染が散発的に発生しても、人から人に連続的に感染が広がる「新型インフルエンザ」にはなっていない段階でワクチンの製造準備を始める。新型インフルエンザに変異し、国内にも感染が広がる段階では、医療従事者や公務員を始め、電力・ガス・鉄道などの従業員らから接種することになる。
こうした自治体レベルまで特措法の行動計画が整う前に、H7N9型が新型インフルエンザ化する恐れが強まっていることから、"つなぎ"として指定感染症とした。感染症法は、危険度に応じて感染症を1~3類に分類しており、鳥インフルエンザでは、重症化しやすいH5N1型が2類だ。さらに、それ以外のマラリアなど動物や昆虫から感染する感染症を4類、季節性インフルエンザなどを5類と定めている。
H7N9型は今のところ4類とされているが、指定感染症とされると1~3類相当の緊急的対応が可能になり、強制的な入院や就業制限もできる。同時に検疫法に基づき、患者と疑われる人を空港で強制的に検査できる検疫感染症にも指定し、水際での対策を強める。
「諮問委員会」が国に助言
このように、法的な仕組みはひとまず整ったが、実際の運用まで考えると、課題は多い。
特措法に基づく外出の自粛要請や人々が集まる場所の使用制限などについては、行き過ぎれば基本的人権を侵害すると懸念する声が弁護士などから出ている。営業制限が企業経営に響き、長引けば景気全体の足をひっぱる事態も考えられる。ワクチンの接種も、流行が早ければ必要量の確保に手間取り、国民の不満が高まる場合も考えられる。
2009年に豚由来の新型インフルエンザが流行した際は、潜伏期間や不顕性感染があり、水際で国内侵入を食い止めることはできないのに、空港での検疫や停留が過剰だった。商店の臨時休業など横並びの措置も広がり、新型インフルエンザの毒性が通常のインフルエンザと同等らしいとわかってからも、過剰な対応が続いたという苦い経験がある。
そこで、特措法に基づく国の行動計画案で、医学から経済学まで含む専門家や有識者で構成する「諮問委員会」を組織し、国の対策本部に助言するとされた。この点は、多くの関係者が評価するところ。また、感染拡大時に、国民に分かりやすく、継続的に説明できるスポークスマンが重要なことは、2009年の教訓であり、福島原発事故でも必要が痛感された。社会への副作用も大きい特措法や行動計画を円滑に機能させるためには国民の理解が必要で、そのためにも、信頼できる情報を的確に流すことが不可欠だ。