米ニューヨーク・タイムズ紙の報道に対し、猪瀬直樹東京都知事は当初、他の五輪立候補都市を批判したことを否定した。しかし、一転して不適切な表現だったと訂正して謝罪している。批判だったとすれば、なぜそんなことをしたのか。
ニューヨーク・タイムズ紙は猪瀬直樹都知事の発言を2013年4月26日に報じたが、日本の主要メディアが報じたのは29日になってからだった。発言が事実かどうか、確認に時間がかかったこともあるらしい。
トルコ閣僚「発言は公正ではなく、悲しい」
英文のサイト記事によると、猪瀬氏は、インタビューに対し、「ベストの開催地はどこだと思いますか?」と思わせぶりな質問をした。そして、立候補したトルコのイスタンブールやスペインのマドリードを挙げ、「インフラや洗練された競技施設がまだ整っていない」と指摘した。そして、トルコを念頭に置いてか、「イスラム諸国が共有しているのはアラーの神だけで、お互いにケンカばかりしている。これらの国には階級というものがある」と述べた。
さらに、トルコの人々が長生きしたければ、日本のような文化を創るべきで、若者が多いだけではあまり意味がないとまで話した。
ニューヨーク・タイムズ紙は記事で、猪瀬氏が他都市を批判したと報じ、これはIOCの行動規範に反する発言の可能性があると指摘している。
これに対し、トルコの閣僚が28日になってツイッターで言及し、「発言は公正ではなく、悲しいことだ。オリンピック精神に反している」と漏らした。IOCも、通訳を通した発言なので真意は分からないとしながらも、立候補都市に行動規範を守るよう呼びかける声明を出した。
日本のネット上では、29日になって騒ぎになり、猪瀬氏のツイッターなどにも質問や意見が寄せられた。猪瀬氏はこの日、ツイッターで「他の立候補都市を批判する意図はまったく無く、このようなインタビューの文脈と異なる記事が出たことは非常に残念だ」と初めて口を開いた。そして、フェイスブックでも自らの発言について説明している。
思わず猪瀬氏の本音が出てしまった?
猪瀬直樹氏はフェイスブックで、ニューヨーク・タイムズ紙の記事について、「真意が正しく伝わっていない」と不満を述べた。そして、IOCの行動規範は理解しており、今後も尊重していくと言明している。
ところが、ニューヨーク・タイムズ紙の編集幹部は「取材に絶対の自信を持っています」と反論したと、日本のメディアにも報じられた。さらに、取材に同席した日本人記者がツイッターで、猪瀬氏が日本語でも同様な発言をしていたと暴露した。オフレコ要請はなく、発言を録音しており、猪瀬氏が用意した通訳の言葉をそのまま使ったと言っている。
猪瀬氏は2013年4月30日になって、一転して謝罪に回った。報道陣への説明で、表現不足で誤解を与えたとして、発言を訂正する事態になったのだ。
行動規範については、事前に知っていたようだ。3月の都議会で、「ネガティブキャンペーンはしちゃいけないことになっている」と答弁しているからだ。開催地決定を前に、なぜ不用意な発言をしたのか。しかし、報道陣に明かしたのは、「自分のどこがよいのかと説明するために、どうしても他都市と比較して答えてしまう」といった苦しい弁明だけだった。
猪瀬氏のツイッターを見ると、副知事時代から他都市への批判めいた発言をしている。12年8月11日には、「マドリードは欧州危機、イスタンプールはシリア内戦など不利な条件」などとつぶやいていた。猪瀬氏は、批判のつもりはなかったとの立場を変えていないが、思わず本音が出たのかもしれない。
ネット上では、「誘導質問にまんまとハマった感じだろう」「脇が甘いんだよ」といった厳しい意見が出ている。しかし、東京招致への影響については冷ややかで、「イスタンブールでやらせてやれ」などと突き放した声も出た。