日銀、異例の「降格」人事が意味すること
しかし、半径1メートルしか見えていない債券部門出身のエコノミストには、「これから銀行は大きな損失を余儀なくされる」などと語る。彼らはマクロ経済政策に直接タッチしているわけではないが、マスコミを通じてそうした説が掲載されてしまう。しかしこれは、銀行内部のセクショナリズムを語っていることとほとんど同じであり、マクロ的には取るに足らないことだ。ほとんどの人にとってどうでもいい話なのだ。
要するに、債券市場関係者が市場が壊れたと「泣き」をいれても、日本経済はおろか、その金融機関にさえ大きな影響はないのだ。
今の長期金利は歴史的に見ても低水準である。いつ相場が反転しても不思議でない状態なので、安定しているほうがおかしい。それに加えて、日銀出身のエコノミストを含め日銀の金融政策転換を読めなかった人たちが泣き、日銀の現場職員も金融政策の方向転換に対応できずにあわをくって、関係者みんなが騒いでいる。相場の転換期に加えて、日銀が新体制に不慣れという要因も混乱に輪をかけたのだ。
そんな中で、4月17日、日銀人事が発表された。黒田体制の初めての人事だ。その中で、金融市場局長が決済機構局長になる人事はもっと注目されていい。長谷川幸洋・東京新聞論説副主幹以外のマスコミは、短信報道以上には報じていない。この人事は異例の降格人事だ。おそらく黒田総裁は日銀で人事を掌握して、これまでの日銀を方向転換することに成功しているのだろう。今回事前情報リークがなかったこともそれを裏付けている。
こうした重要なことを報道せず、半径1メートルの「泣き」ばかりの報道ばかりみていては、世の中の動きを見誤る。日銀の体制が大きく変わり、これまで日銀からの情報リークを受けて、日銀の行動を先読みしていた日銀出身のエコノミストは、今回の日銀の政策変更をまったく読めなかった。それで債券市場関係者が右往左往しているだけなのだ。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」、「日本は財政危機ではない!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)など。