カジュアル衣料大手の「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は、海外で採用した社員も国内と同じ基準で評価し、成果が同じなら賃金も同じ水準にする「世界同一賃金」を導入する考えを明らかにした。
日本人社員と新興国や欧米の社員の働きぶりを、「同じ土俵」で評価することで賃金水準が全世界で均一化していくことが予想され、結果的に比較的高い日本人の賃金が下がる可能性もある。
柳井社長の年収4億円から、最下位層は平均320万円
ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は朝日新聞(2013年4月23日付)のインタビューで、「世界同一賃金」を導入することで、グローバル企業として成長していく姿勢を明確にした。同時に、グローバル企業に勤務する人材は「世界中の人材と競争していかなければならない」ことを強く印象づけた。
店長候補として採用した全世界で働く正社員(グローバル総合職)のすべてと役員が、「世界同一賃金」の対象となる。
すでに、2013年度から執行役員や上級部長クラスは「世界完全同一賃金」に移行。具体的には、柳井社長を「ピラミッド」の頂点とし、最下位までを19段階に分割。上位の役員や上級部長(51人、うち海外採用10人)は、柳井社長の年収4億円から7段階に分かれ、平均年収は2000万円。この階層を、将来的には上位8~9位に拡大する計画で、そこには「スター店長」も含んでいる。
さらには、部長や「スター店長」のクラスに「実質同一賃金」を導入する。このクラス(1009人、うち海外採用は315人)は上位8位~14位の7段階に分かれ、平均年収は670万円。その下に、店長や一般社員(3851人、うち海外採用1856人)ら、「賃金体系と評価基準のみを統一した」階層を5段階で設けており、平均年収は320万円だ。
「世界同一賃金」を導入する狙いについて、柳井社長は「社員は、どこの国で働こうが同じ収益を上げていれば同じ賃金、『同一労働、同一賃金』というのが基本的な考え方。新興国にも優秀な社員がいるのに、国が違うから賃金が低いというのはグローバルに事業を展開する企業ではあり得ないこと」と語った。
ただ現実には、たとえば英ロンドンとバングラディッシュの店長の賃金を完全に同一にできるかといえば、難しい。ユニクロは「当面はローカル採用、ローカルルールを運用しながら、他社より競争力をもって対応します」と説明している。
「年収100万円でも仕方がない」
とはいえ、日本人社員は手放しでは喜べないところもある。中国などの新興国に比べて賃金が高い日本は下へ引っ張られる。反対に、賃金の低い国は賃金が上がるわけだ。
ユニクロの店長の賃金水準は、日本より欧米のほうが高く、日本より新興国のほうが低い。柳井社長は「日本で賃下げは考えていない。一方で新興国の賃金をいきなり欧米並みにはできない。それをどう平準化し、実質的に同じにするかを検討している」という。
しかし、一方で、「将来は年収1億円か100万円に分かれて、中間層が減っていく。仕事を通じて付加価値がつけられないと、低賃金で働く新興国の人の賃金にフラット化するので、(理論上は)年収100万円のほうになっていくのは仕方がない」とも話し、「付加価値」をつけられない社員が退職に追い込まれたり、場合によってはうつを発症したりすることも否定しない。
柳井社長曰く、グローバル経済というのは「Grow or Die(成長か、死か)」なのだそうだ。