球界を代表するエース、広島の前田健太が2013年4月20日付けで一軍を離れた。それも巨人戦の予告先発をしながら、直前での登録抹消。WBC出場の影響か、との見方が広がっている。
予告先発したが直前に「見送り」
この日は前田と巨人のルーキー菅野が投げ合うことになっていた。土曜日とあっておよそ2万7000人のファンがマツダ・スタジアムを埋めた。沢村賞投手と新人王を狙う売り出し中の投手の対決。だれもが注目していた。ところが広島の先発は中崎。前田の姿はなかった。「右腕の張り」が出場登録抹消の理由だった。
前田は「ここ2、3日で張りを感じた」と語り「大事には至らないだろう」。勝てる投手の緊急事態に、野村監督は「見切り発車で投げさせ、長引いたら困る」と慎重な言い回しだった。
ただの登板回避ならば、先発予定を1回飛ばすだけでベンチに置いて調整させる。登録抹消となると、明らかに患部に疑義があるということである。原因をしっかり突き止める日数がほしかったのだろうし、一軍から外すことで原因究明の気持ちを持たせたのだと思う。
ただし前田の場合、今年のキャンプ中から右腕の異状が指摘されていた。WBCもそんな不安を抱えられながらの参加だった。前田を案じていたWBCコーチがいた。代表選考のころ、「前田を大会後、投げられる状態で(広島に)戻したい。不安があるなら(代表から)外すことも考えなくては…」と、そのコーチは語ったという。この経過から「WBCの後遺症ではないか」との声が上がるのは当然のことだろう。
WBCなど、今後の「国際大会」への選手派遣に影響は?
前田はWBCのメンバーに選ばれた後、豪州との壮行試合(2月24日)に先発し、3回を投げ四球連発のピンチで3点本塁打を浴びた。本来の力を発揮したのは本番のオランダ戦(3月10日)。先発で5回1安打、無失点。日本を決勝トーナメントに導いた。米国に渡っての準決勝、プエルトリコ戦(現地17日)で先発し、5回4安打、1失点の好投を見せたが、試合は1-3で敗退した。
しかし、実際は万全の肩ではなかった、という。キャンプ中に、整体師に診てもらったり、鎮痛剤を服用していた、との情報もある。つまり、WBCは無理を押して出場した、というのである。セ・リーグ公式戦での初登板は3月31日、巨人3回戦(東京ドーム)。開幕第3戦だった。このときも開幕戦を回避したとささやかれ、右肩の状態を疑われた。
この前田の状況が芳しくないとなると、今後のWBCをはじめとする国際大会に影響することが予想される。どのチームも主力投手を出すかどうか。ロングランのペナントレースを投げ抜いたうえ、厳しいスケジュールで投げるのは難しいのが実態だからだ。
日本野球機構(NPB)は「侍ジャパン」を編成して収益を上げるための企画を画策している。4年に一度のWBCの合間を縫って開催を狙うのが「プレミアム12」。これはアマ中心の世界大会を改変し、プロも参加するものなのだが、米国の大リーガー出場は見通しが立っていない。
前田の一軍離脱は余波が大きくなる事案なのである。これ以上の国際試合に各球団が協力するとは思えない。前田は今年1月に「年俸2億1000万円プラス出来高払い」のビッグ契約を結んだばかり。投手は投げられなくなったら価値がない。(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)