ボストンマラソンで発生したテロ事件は、警察との銃撃戦で兄のタメルラン・ツァルナエフ容疑者(26)が死亡し、弟のジョハル・ツァルナエフ容疑者(19)の身柄が拘束されたことで、捜査の焦点は犯行動機の解明に移った。
出身地のイスラム過激派とのつながりを指摘する声がある一方で、2人が米国に移住してから10年以上経っていることから、今回のテロは国外組織の犯行ではなく、自国民が独自に引き起こす「ホームグロウン・テロリズム」だとの指摘も根強い。
「ホームグロウン・テロリズム」を抑止するためには、安全と引き換えに自国民の自由や権利を制限することもやむを得ないとされ、米国は新たな課題を抱えることになった。
ロシアが兄について「イスラム原理主義に対する強い信仰」と照会
米メディアの報道を総合すると、兄弟はチェチェン民族で、旧ソ連南部出身。ロシアのダゲスタン共和国と中央アジアのキルギスタン共和国を転々とし、02年頃に米国に移住したとされる。弟は後に米国市民権も得ている。
イスラム過激派とのつながりが指摘されている理由は、ここ数年の兄の動向にある。米連邦捜査局(FBI)は2013年4月19日、11年に「ある外国政府」から兄について「イスラム原理主義に対する強い信仰を持っている」という懸念を伝えられていたと発表した。FBIは「ある外国政府」の具体名は明らかにしていないが、米メディアによるとロシアだとみられている。
FBIは兄の交友関係などについて捜査したが、テロ組織との関連は見つからなかったという。だが、兄は12年には半年にわたって米国を離れ、チェチェンやダゲスタンを訪問していた。このことも、兄が何らかの組織とのつながりがあるとの見方に信ぴょう性を持たせている。
だが、安全保障に詳しいコラムニストのヨシュア・ファウスト氏は同日、クリスチャン・サイエンス・モニター紙に「メディアの性急さは間違いを招く」と題して寄稿し、この見立てを批判している。
「アナリストは、子ども時代に米国に移住した2人が、ロシアとチェチェンの紛争につながりがあると示唆するが、無責任だ」
チェチェン共和国は「悪の根源は米国で探さなければならない」と突き放す
容疑者兄弟のルーツともいえるチェチェン共和国は、露骨に距離を置いている。ラムザン・カディロフ首長は、ソーシャルメディアのインスタグラムに、
「ツァルナエフ容疑者兄弟が有罪ならば、チェチェンと兄弟を結びつけようとするいかなる試みも無駄だ。彼らは米国で育っており、ものの見方や信念は米国で形成されている。悪の根源は米国で探さなければならない。世界全体がテロと戦わなければならず、これは我々が一番よく知っている」
と書き、突き放した。あくまでも米国の国内問題として処理すべきだとの主張だ。
自らが育った国で過激な思想に触れてテロを起こす「ホームグロウン・テロリズム」は、05年にロンドンで起きた連続テロにパキスタン系英国人が関与していたとして問題化したが、各国政府は有効な対策を打てないままだ。
最近の事例としては、日本人を含む多数の犠牲者を出した13年1月のアルジェリア人質事件で、イスラム武装勢力の実行グループにカナダ国籍の男が2人含まれていたことが問題化した。
これらの「ホームグロウン・テロリズム」に対しては、通常の対策では有効な「水際作戦」が使えず、リスクを減らすためには、国内に監視カメラを増やすなどの治安対策強化が有効だとみられる。
4月17日には、米上院が銃購入者全員の犯罪歴調査を義務づける銃規制案を否決し、オバマ大統領が「ワシントンにとって恥ずべき日だ」と強烈に非難したばかり。安全と引き換えに自らの権利を制限することに対する抵抗の激しさが裏付けられたともいえ、米国内での対策は容易ではない。