便利な「Suica」「ICOCA」などの交通系ICカードだが、こんな不満を持つ利用者が少なくないようだ。
「ICカードって、なんで鉄道会社のエリアをまたいで使えないの?」
十数分の距離でもエリア違うとアウト
JR各社のICカードは、基本的にSuicaならJR東日本、ICOCAならJR西日本の「ナワバリ」の中だけで利用することが想定されている。そのため、たとえば東京から大阪など、地方をまたいでの旅行の際に、「いつも使ってるICカードが使えない!」という問題に直面しやすい。
その「理不尽さ」の例としてよく挙げられるのが、JR東日本エリアの終点である熱海駅だ。この駅からSuicaを使って乗車し、十数分離れた三島駅で下りようとすると、たちまちエラーとなってしまう。三島駅がJR東海の管内に入っているためで、この区間は面倒でもいちいち切符を買って乗車するほかない。これでは、せっかくの便利さも半減だ。
ICカードをめぐっては、2013年3月23日から交通系10社の提携で、「全国相互利用サービス」が開始されている。これにより、この10社のカードのうちどれか1つを持っていれば、北海道から九州まで、対応する全国の鉄道・バスを利用できるようになったが、依然としてエリアをまたいでの利用は原則的にできないままとなっている。
「システムがあまりに膨大」で着手に気乗り薄
そこでJR東日本・東海・西日本の3社に、「結局のところ、なぜエリアまたぎの利用はできないのですか?」と疑問をぶつけてみた。
各社の担当者が口をそろえたのは、「システムがあまりにも膨大」ということだった。というのも元々、ICカードは各社が自社の管内での利用を想定して作っているもので、清算のシステムなども各社ごとに異なってくる。
「各事業者全体のシステムを作り変える必要がある上、運賃の計算範囲も膨大に広くなる。10社のシステムを全部リンクするとなると、まずは技術的に可能かを考えなくては……」(JR東日本)
ちなみに、2007年にJR東日本が首都圏の交通各社との間でICカードの相互利用を可能にした際には、共通仕様策定に3年を費やし、またコンピュータを3か月間フル可動させて億単位の乗車シミュレートを行っている。これが全国ともなればさらに困難は増すと見られ、その労力の莫大さを思うと、容易には手が出せないというところのようだ。
「最終的には実現したい、けど…」
では、エリアまたぎ利用の実現性はあるのだろうか。比較的前向きな姿勢を示したのはJR東日本で、「最終的には実現したい」とのことだった。もっとも、まずは3月からの全国相互利用が問題なく稼動するかの検証が第一とのことで、「短期的には難しい。もう少し長いスパンで見ていきたい」と話す。
JR西日本の担当者も、ひとまずは今回の相互利用が「精一杯」。「ニーズ次第では検討しなきゃいけないかもしれませんが」とはしつつ、「今の段階ではそういう話は聞いてないですね」という。JR東海は気乗り薄の様子で、「現時点でそういう話はないです」とぴしゃり。夢の「完全相互利用」は、今のところ切実なニーズとしては受け止められていない様子だった。
そして、カード導入前から相互利用できるようにシステムを組んでおくべきだったのではないか、という疑問も浮かぶ。