上司をからかっても憎まれず、ちょっとエッチなダメ男。でも、庶民の気持ちを代弁する小さな正義漢。あの昭和全盛期の気分を体現した4コマ漫画「フジ三太郎」が電子書籍になって帰ってくる。題して「フジ三太郎とサトウサンペイ」全27巻。
「フジ三太郎」は昭和40年(1965年)から平成3年(1991年)まで朝日新聞に連載されたサトウサンペイさんの代表作である。日本に再び、あの昭和の活気を吹き込んでくれればと、期待のキャラクター再出馬である。発行・発売元はジェイ・キャストで、2013年4月10日から主な電子書店で発売された。1巻350円。
電子書籍なりの良さを追求するというこだわりで編集、制作
印刷物の書籍をそのままコピー、あるいは、印刷出版物を制作する過程でデジタル保存したデータを利用して電子書籍にする手法を取り入れることによって電子書籍が大量に生産されるようになった。編集作業を簡略化することで、早く、安価に制作できる。
「フジ三太郎とサトウサンペイ」は若い読者層中心から年代のすそ野を広げ、大人が楽しめるよう企画された。既刊書籍をコピーするのではなく、電子書籍なりの良さを追求するというサトウサンペイさんのこだわりで編集、制作された。
新聞に掲載された漫画は約8000点。ここからサンペイさんは分かりにくいもの、作品として残したくないものを振り落とし、数百点は吹き出しを変えたり、線を補強したり、短い解説を付けるなどして6300点を選び、今の時代でも楽しめる漫画シリーズにした。
サンペイさんはデジタルに関して特別の思い入れがある。大ベストセラー「パソコンのパの字から」の著者でもある。
印刷物書籍の流通では返品、絶版が避けられない。古書としては流通するが、紙は劣化する。その点、電子化すれば半永久的に流通することができる。今回、「フジ三太郎」の再刊、復刊ではなく、新たなる編集で永久保存にふさわしいものを残したいというのがサンペイさんの考えだ。それは、今も元気だとはいえ、80歳を過ぎた作家にとって超人的な挑戦だった。
「こんな面白い漫画がないから日本人は劣化した」
自ら電子ペンを使っての作業で、徹夜することもたびたび。構想から2年で完成した。「女工哀史」「蟹工船」的な労働だったと、サンペイさんは振り返って苦笑する。
「フジ三太郎とサトウサンペイ」は、昭和の年号ごとに1冊に編集されている。各号にサンペイさんのインタビューを分載した。昭和に活躍した著名な作家、漫画家、タレントなどとの愉快な交流エピソードが盛り込まれている。
新聞漫画なので、その時代の主なニュース、話題が網羅されている。市民が受け取った感覚、気分が漫画で表現されており、珍しい昭和史となっている。時は昭和の全盛期で、人口が1億人を突破、3億円事件、あさま山荘事件、大阪万博、ディズニーランド開園、巨人阪神戦が沸いた、華やかで懐かしく、日本が輝き、苦しくても頑張る、日本人が元気な時代だった。サンペイさんはこの気分を伝えた漫画のニュースキャスターだったのである。
サンペイさんのブログ「ジーの思い出し笑い」には、多くのファンがコメントを寄せている。そこで常連の漫画家、ヒサクニヒコさんは「こんな面白い漫画がないから日本人は劣化した。物事をいろんな角度から、常識とユーモアを武器に切り込む手腕で、今の世にご意見番として復活してもらいたい」と投稿している。
サンペイさんの漫画やエッセイは多くの出版社から出版されており、このうち朝日新聞出版社から、「夕日くん」(週刊朝日連載)や「食べ物さん、ありがとう」など、往年のベストセラーが電子書籍で順次発売される予定である。